「ハトにカメラを仕込んで撮影」など動物を使ったスパイ活動の成功例と失敗例について国際安全保障の専門家が解説
厳重に警備されているエリアの盗撮や盗聴をして情報を得るために、動物にカメラを取り付けてスパイ活動させるという試みは、旧ソ連やアメリカ中央情報局(CIA)を中心に古くから実行されています。動物スパイの歴史や成功例、失敗例などについて、イギリスのバーミンガム大学で国際安全保障の教授を務めるステファン・ウォルフ氏が解説しています。
The world’s most bizarre secret weapons: how pigeons, cats, whales and even robotic catfish have acted as spies through the ages
https://theconversation.com/the-worlds-most-bizarre-secret-weapons-how-pigeons-cats-whales-and-even-robotic-catfish-have-acted-as-spies-through-the-ages-244227
2024年9月に、有名なシロイルカ「ヴァルデミール」の死骸が発見されました。ヴァルデミール(Hvaldimir)はノルウェー語でクジラを意味する「hval」とロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領の「Vladimir」を組み合わせた名前で、2019年に発見された際に「ロシアによって訓練されたスパイイルカなのではないか」というウワサが広がったため名付けられました。
有名な「ロシアのスパイイルカ」が死んでいるのが発見される - GIGAZINE
ヴァルデミールがスパイ活動に使われたかについて、モスクワ当局は公式のコメントをしていません。しかし、ウォルフ氏によると、旧ソ連は海洋動物をスパイや暗殺者として訓練するプログラムに取り組んでいた歴史があり、その中にはイルカやシロイルカも含まれていたとのこと。
同様の動物を使ったスパイ活動の実験をしているのがCIAです。特に知られているものとして、1960年代に行われたネコを使用したスパイ計画「アコースティック・キティー」があります。アコースティック・キティーでは、ネコの耳にマイク、頭がい骨の下部に無線通信機、毛皮にアンテナを外科手術で編み込んだ上で、外国の役人の近くで遊ぶようにネコを訓練しました。しかし、ネコは道路に迷い込んでタクシーにひかれてしまったことで、計画は頓挫しました。当時の作戦を記したメモには「訓練されたネコの最終検査の結果、このプログラムは、我々の高度に専門的なニーズに実際的な意味では役立たないという確信を得た。問題は、猫は特に訓練しやすいわけではないということだ」と記されています。
動物スパイの成功例として知られているのはハトです。CIAは2019年に「冷戦中にハトを使ってソ連をスパイしていた」と明らかにしました。小型カメラを装備したハトは、立ち入り禁止区域に空からアクセスして写真を撮り、優れた帰巣本能により数百km離れた位置からでも巣に戻ってきます。また、イギリス軍隊とのつながりが強いメディアのForces Newsによると、イギリスの秘密情報機関も第二次世界大戦中の占領下にある領土にパラシュートで質問票と合わせてハトを投下し、敵国の作戦を記したメモを携えたハトを帰還させてスパイ活動をしていたそうです。
イギリスの秘密情報局が第二次世界大戦中に実施した動物を使った作戦には「爆発ネズミ」というものもあります。ネズミの死骸にプラスチック爆薬を詰め、ドイツの工場のボイラー室に仕掛けると、ネズミの死骸を見つけた工場労働者は死骸をボイラーに放り込むため、大爆発を引き起こすというアイデアです。しかし、爆発ネズミの輸送の時点でドイツ軍に察知され、約100匹分のネズミの死骸が押収されたため作戦は成功しませんでした。ただし、ドイツ軍は計画を受けてネズミに対し疑心暗鬼になって膨大なリソースを浪費したことから、「爆発ネズミが実際に使われた場合よりも、計画が漏れて引き起こされたトラブルの方がはるかに大きな成功だった」とも言われています。
現代では、情報収集の手段としてドローンが用いられることが数多くあります。2024年の第33回夏季オリンピック競技大会(パリ五輪2024)では、敵チームの偵察にドローンを使用した例も話題になりました。動物スパイは隠密性や奇襲性が高い一方で、アコースティック・キティーのように動物特有の予測不可能な一面もあるため、代わりに、動物を模したドローンで標的に近づく方法が模索されます。CIAは1970年に鳥や昆虫を模した飛行機を開発しており、今日のドローンの先駆けと言われています。また、1990年代にはロボットのナマズ「チャーリー」を運用に成功した水中ドローンとしてCIAは公開しています。以下は、CIAが公開したチャーリーについてのムービーです。
The Debrief: Behind the Artifact - Charlie the Fish - YouTube
ウォルフ氏は「動物スパイのアイデアは過去にさまざまな例がありますが、スパイ活動に成功したもの、失敗したもの、スパイには失敗したけれど大きな利があったものなど、多種多様です。中には、イギリスの秘密情報部(MI6)が通信機を仕込んだ偽の岩を設置してロシアのスパイの通信を傍受しようとしたものの、なんでもない岩の近くにスーツの集団が集まっていたことで露見したという悲しい例もあります。高額な研究予算と有望な技術の進歩は、特定の状況では優位性をもたらしますが、最も効果的なスパイ技術は、素早い思考と大胆で恐れを知らない人間の行動に依拠する場合があります」と語りました。
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