「フッ素」はどうやって虫歯を予防するのか?
多くの歯磨き粉には、虫歯を予防する有効成分としてフッ素が使われているほか、国や地域によっては虫歯予防のために水道水にフッ素が入れられています。虫歯ができる原因や、それをフッ素が予防するメカニズムについて、科学系ニュースサイト・Live Scienceが専門家に取材しました。
How does fluoride prevent cavities? | Live Science
https://www.livescience.com/health/how-does-fluoride-prevent-cavities
世界では水道水や牛乳、食塩にフッ素を添加したり、学校が子どもにフッ素入りのマウスウォッシュを与えたりする取り組みが行われていますが、これは特定の地域に住む子どもの虫歯が極端に少ないことが判明したのがきっかけです。
イギリス・マンチェスター大学の応用健康科学者であるルーシー・オマリー氏は「その地域の水道水には、天然のフッ化物が約1ppm(100万分の1)の濃度で含まれており、それが虫歯を防ぐのに効果的だったことが、疫学データからわかりました」と話しました。
人の歯は、硬くて光沢のある表面の「エナメル質」、歯の大部分を占める「象牙質」、歯の内部にある軟組織の「歯髄」、歯根を顎に固定する薄い層の「セメント質」でできています。
歯の構成要素のうち、特に重要なのが人体で最も硬い物質であるエナメル質です。エナメル質の主成分はハイドロキシアパタイトで、その中では大きなリン酸粒子が密集し、小さなカルシウムイオンと水酸化物イオンがその間の空間を埋めます。そして、電荷がプラスの粒子とマイナスの粒子がしっかりと引き合い、非常に強固な鉱物となることで、柔らかく傷つきやすい象牙質や歯髄を損傷や摩耗から保護します。
しかし、甘いお菓子や飲み物を摂取すると、口内の細菌が糖分を分解して酸を排出し、エナメル質を劣化させる「脱灰」を引き起こします。
脱灰が起きると、まず酸がエナメル質からリン酸と水酸化物のマイナスイオンを溶かし出して、全体的な強度を弱体化させます。そして、エナメル質の表面の穴が象牙質にまで到達すると、細菌が歯の内側に侵入してしまい、歯がむしばまれるう蝕(しょく)がさらに加速します。こうして起きる歯の構造の崩壊が虫歯です。
このプロセスを予防してくれるのが先述のフッ素で、大きく分けて2つの保護作用を発揮します。
これについて、バーミンガム大学の歯科衛生学教授のアレクサンダー・モリス氏は「フッ素が歯のエナメル質に取り込まれると、細菌が作り出す酸に対する耐性が高まるので、そもそも虫歯になりにくくなります。また、フッ素は修復過程でより抵抗力のあるエナメル質を作り出すことで、初期の虫歯の修復にも役立ちます」と説明しています。
歯の修復は「再石灰化」と呼ばれる現象で、フッ素がなくても唾液による自然修復の際に発生していますが、フッ素があるとこの働きが強化されます。
なぜなら、フッ化物イオンは水酸化物イオンよりもはるかに小さいため、リン酸粒子の間によりしっかりと入り込み、元のハイドロキシアパタイトよりコンパクトで強い結晶構造であるフッ化アパタイトが形成されるからです。
フッ素が歯の健康に効果を発揮することは十分に証明されており、1970年代から半世紀にわたって歯磨き粉の添加物として使用されてきた歴史があります。
オマリー氏は「フッ素の使用が拡大した頃から、虫歯の発生率は劇的に減少しました」と話しました。
ただし、水道水にフッ素を添加する「水道水フロリデーション」については健康への影響に対する懸念から反対の声も上がっています。なお、日本では水道水へのフッ素の添加は行われていません。
水道水のフッ化物濃度を調整して虫歯を予防する「水道水フロリデーション」は脳の発達に悪影響を及ぼすとして規制を求める議論が繰り広げられている - GIGAZINE
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