PlayStation 5 Proに搭載されたAMD製GPUの仕様を解説する公式動画が登場、「PS5 Proの開発は2020年に始まった」「世界初のレイトレーシング技術を搭載」など興味深い情報多数
PlayStation 5(PS5)のリードアーキテクトであるマーク・サーニー氏が「PlayStation 5 Pro(PS5 Pro)」に搭載されている「強化版GPU」「強化版レイトレーシング」「AI超解像技術」について解説する動画が公開されました。合わせて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とAMDが提携を強化してAIアーキテクチャやニューラルネットワークを開発する「AMETHYST(アメジスト)」と呼ばれるプロジェクトを進めていることも明かされています。
マーク・サーニー氏による「PlayStation®5 Proテクニカルセミナー」映像を公開。PS5 Proの設計について、技術的な詳細をお届け! – PlayStation.Blog 日本語
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PS5 Pro Technical Seminar at SIE HQ - YouTube
PS5 Proの開発計画はPS5の発売前である2020年から始まっていたとのこと。計画当社から「GPUの強化」「レイトレーシングの強化」「AIを用いた超解像(PSSR)」の3点が重点課題として設定されていました。
PS5 Proはシステムメモリとして帯域幅576GB/sのGDDR6メモリを搭載しています。PS5 Proでは8K出力に対応するために多くのメモリが必要なほか、PSSRの内部バッファに数百MB、レイトレーシングにも数百MBのメモリを必要とします。このため、比較的低速なDDR5メモリも搭載し、OSの大部分をDDR5メモリに移動させることでゲームの処理に高速なメモリを割り当てられるようにしています。
PS5にはAMDのRDNA 2 GPUを搭載していましたが、PS5 Proには複数のバージョンのRDNAを組み合わせた「HYBRID RDNA GPU」が搭載されています。また、PS5は「Work Group Processor(WGP)」というサブユニットを18基搭載していましたが、PS5 ProではWGPの数が30基に増えました。
HYBRID RDNA GPUの基盤技術はRDNA 2とRDNA 3の中間に位置するもので、「RDNA 2.x」と呼ばれています。また、レイトレーシングには将来のRDNAに使われる技術を世界初採用しているほか、AI処理用にカスタム仕様のRDNAも組み込んでいます。
PS5 ProがRDNA 3をフル採用していない理由は、互換性の維持にあります。RDNA 2とRDNA 3はシェーダープログラムが異なるため、仮にPS5 ProにRDNA 3を採用するとゲーム開発者がPS5とPS5 Pro向けに別々のコードを用意する必要が生じてしまいます。
そこで、シェーダープログラムはRDNA 2のものを維持しつつ、RDNA 3のジオメトリパイプの一部を取り入れることで頂点処理やプリミティブ処理を高速化しました。これがRDNA 2.xです。
PS5 ProはPS5と比べてWGPの数が1.67倍に向上しており、1秒辺りの浮動小数点演算回数も1.67倍の16.7FLOPSへと向上しています。ただし、実際のゲーム処理時には「メモリ帯域幅」や「各種ゲームエンジンが新しいアーキテクチャにどう反応するか」といった要素が絡み合うため、ゲームレンダリング性能がそのまま1.67倍になるというわけではありません。
サーニー氏によると、実際のゲームレンダリング性能は最大1.45倍に向上しているとのこと。例えばPS5で60fps動作の際に16ミリ秒かかるレンダリング処理はProなら11ミリ秒で実行可能で、残った5ミリ秒を使ってレイトレーシングなどの他の処理を実行できます。
PS5 Proではレイトレーシングの処理性能も強化されました。PS5 Proの開発開始前からレイトレーシングは流行の兆しを見せていましたが、計算コストが非常に高いという問題もありました。このため、開発チームは「レイトレーシングの計算の高速化」を最優先事項の1つに設定したとのこと。最終的にAMDと協力して将来のレイトレーシング機能をPS5 Proに初搭載することとなりました。これにより、PS5 ProはPS5と比べてレイトレーシングの計算速度が2倍~3倍に向上しています。
一般的にレイトレーシング処理ではオブジェクトを無数の三角形に分割し、「各光線が三角形にどのように反応するか」を計算します。PS5やPS5 Proでは三角形をボックスと呼ばれる単位に分割することで処理を効率化しています。
PS5とPS5 Proは各WGP内の「Intersection Engine」を用いて光線の軌跡を計算しています。PS5の場合は「BVH4」と呼ばれるアクセラレーション構造を使用しており、Intersection Engineは1サイクルごとに最大4つのボックスもしくは1つの三角形に対する光線を計算できました。PS5 Proでは「BVH8」というアクセラレーション構造を採用しており、1サイクルごとに最大8つのボックスもしくは2つの三角形を計算できます。
また、PS5 Proではスタック管理をハードウェアで実行することでレイトレーシングの処理効率を高めています。PS5シリーズのWGPは1度に32個もしくは64個の項目を処理可能です。32個の処理内容がすべて同じ場合は高速な処理が可能なものの、処理内容が異なると処理時間が長くなります。このとき、内容が似通った状態の処理を「コヒーレント処理」、内容がバラバラの処理を「ダイバージェント(分岐)処理」と呼びます。
レイトレーシングでは光線の当たる対象によって分岐度合が変化し、曲面などの分岐度合が大きいと処理では時間がかかってしまいます。
PS5ではスタック管理をシェーダープログラムの中で実行していましたが、Proではハードウェアでスタック管理するようになりました。これによりシェーダープログラムが簡素化され、分岐度合が減少しています。
シェーダープログラムの簡素化に伴って、レイトレーシング処理の分岐度合が大きい状況でもPS5と比べて高速な処理が可能となりました。
PS5 Proの目玉機能の1つがAIを用いた超解像技術「PSSR」です。PSSRは簡単に説明すると「4Kより小さい解像度のフレームをレンダリングし、そのレンダリング結果をAIで拡大して4Kに見せる」というもので、レンダリングにかかる負荷が小さくなり高速かつ高品質な画面描画が可能となります。
PSSRの処理はおおまかに「前処理」「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた拡大処理」「後処理」に分けられます。CNNは毎秒数百兆回の演算を行うため、高性能な処理プロセッサが必要です。
CNNを高速に実行可能にするには「GPUにAI処理機能を組み込む」という手法のほかに「AI処理専用のNPUを追加する」というアプローチもあります。PSSRではCNNのほかに前処理と後処理も必要ですが、NPUはこれらの処理は不得意。このため、PS5 ProではNPUを搭載せずにGPUの機能を強化することになりました。
2020年にPS5 Proを開発し始めた段階で、開発チームは高品質なニューラルネットワークやハードウェアの必要性を認識していたとのこと。これらを用意するには他社から技術ライセンスを購入するという方法もありますが、SIEはAMDと協力して独自のハードウェアとニューラルネットワークを構築することにしたそうです。
AMDとの協力の結果、300TOPSの整数演算性能を備えたGPUが使用可能となりましたが、PS5 Proに搭載されている帯域幅576GB/sのGDDR6メモリでは帯域幅が足らず、300TOPSのうち最大18TOPしか活用できなかったとのこと。
実は、RDNA 2 GPUには高速なデータ転送が可能なベクトルレジスタが搭載されています。そこで、AMDと協力して44個の新たな命令を追加し、WGP内のベクトルレジスタをメモリとして利用できるようにしました。これにより、PS5 Proで200TB/sという超高速なメモリを合計15MB利用して300TOPSの整数演算性能を十分に活用できるようになりました。
これらの工夫により、PS5 Proの整数演算性能は300TOPS、浮動小数点演算性能は67TFLOPSに達しています。
また、PSSRは家庭用ゲーム機ならではの特徴を備えています。一般的にPCゲームではレンダリング解像度が固定されて「負荷の高い場面では描画フレームレートを下げる」という動作をしますが、家庭用ゲーム機では描画フレームレートを固定して「負荷の高い場面ではレンダリング解像度を下げる」という動作をするとのこと。PSSRは「レンダリング解像度が変動する」という動作に最適化されているそうです。
サーニー氏はSIEの今後の技術革新についても触れています。サーニー氏によるとラスタライズレンダリングについては技術が十分に発達しておりGPUの強化やメモリの高速化といった順当な進歩のみが期待されているとのこと。一方でレイトレーシング分野は今後も急速な発展が見込まれているほか、AI分野も大きな進歩が期待されています。SIEはこの中でもAIの開発に重点を置いています。
PS5 ProではAIを用いた超解像が可能となりましたが、今後は「ノイズ除去」や「フレーム補間」などのAI技術の研究も進めているそうです。
さらに、SIEは「ゲーム特化の機械学習アーキテクチャの開発」や「ゲーム特化のCNNの開発」を目的としてAMDとの連携を強化しました。この連携強化プロジェクトはAMDのテーマカラーである赤とPlayStationのテーマカラーである青を混ぜたものとして「AMETHYST(アメジスト)」と呼ばれています。また、アメジストプロジェクトはPlayStation専用の技術を開発するのではなく、多様なデバイスでの機械学習の活用を支援することを目的としているそうです。
なお、PS5 Proの希望小売価格は11万9980円で、記事作成時点ではAmazon.co.jpで12万6754円で売られています。
Amazon.co.jp: PlayStation 5 Pro(CFI-7000B01) : ゲーム
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