EUがStarlinkに匹敵する衛星インターネット網「IRIS2」構築に一歩前進、2030年に運用開始を目指す

欧州委員会は、290基の人工衛星で構成されるインターネット網「IRIS²」を2030年までに完全サービス提供することを目指しており、主要な衛星通信事業者で構成されるSpaceRISEコンソーシアムと委託契約を締結したことを2024年12月16日付けで発表しました。このプロジェクトは、EUのデジタル主権を強化し、サイバー脅威や複合的な脅威に対する回復力を高めることを目指しており、イーロン・マスク氏の宇宙企業・SpaceXが運用するStarlinkの代替案として位置づけられています。

Commission takes step for the IRIS² secure satellite system
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_6439

IRIS²は2022年11月17日に構築することが決定されました。欧州委員会は「IRIS²は、重要なインフラの保護、状況認識、外部活動および危機管理のサポートを含む政府サービスを提供します。これらすべてのサービスにより、EUの回復力が向上します。また、IRIS²は政府機関やEU機関に利益をもたらすことだけを目的としているのではなく、民間部門による商業サービスの提供を可能にし、それによって欧州産業の競争力向上にも貢献します」と述べています。なお、イギリスは2020年1月31日にEUを離脱しているため、構想段階からIRIS²に参画していません。

Council and European Parliament agree on boosting secure communications with a new satellite system - Consilium
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2022/11/17/council-and-european-parliament-agree-on-boosting-secure-communications-with-a-new-satellite-system/

この2024年12月16日の発表で、欧州委員会はIRIS²に関する重要な進展を公表しました。最も注目すべき点として、欧州委員会がSpaceRISEコンソーシアムとの間で特許契約を締結したことが挙げられます。このコンソーシアムには、SES SA、Eutelsat SA、Hispasat S.A.という欧州の主要な衛星通信事業者3社が参画しています。

契約期間は12年間で、欧州委員会は2030年までに政府および商業用の接続サービスを実現することを目指しています。システムは中軌道(MEO)と低軌道(LEO)の290基の衛星で構成され、EUの安全保障、安全性、回復力に関する長期的な課題に対応する重要なインフラとなります。

資金面では、EUと欧州宇宙機関(ESA)からの公的投資に加え、SpaceRISEコンソーシアムからの民間投資も活用される官民パートナーシップ方式を採用しています。EUは主要な顧客として位置づけられています。ESAによれば、開発に約106億ユーロ(約1兆7000億円)が投じられる予定だとのこと。

執行副委員長のヘンナ・ヴィルックネン氏とDefence and Space担当委員のアンドリュス・クビリュス氏は、このプロジェクトがただの技術的成果ではなく、欧州の戦略的自律性を高め、重要インフラを保護し、遠隔地との接続性を向上させる重要な一歩であると強調しています。

なお、経済メディアのCNBCによると、中国もStarlinkに対抗する衛星ネットワークシステムを開発中であると報じており、すでに2024年8月には、上海垣信衛星科技が独自の衛星ネットワークシステム「G60 Starlink」用の人工衛星を低軌道に打ち上げています。

中国がStarlink対抗の衛星インターネット「G60 Starlink」向けの人工衛星をついに打ち上げ - GIGAZINE