オリーブの木に感染する致死性の細菌がヨーロッパの農場に大損害を与えている、世界のオリーブオイル市場に壊滅的な影響が出る可能性も
地中海に面する南ヨーロッパの国では、オリーブオイルなどの原料となるオリーブが数多く栽培されています。しかし2013年以降、オリーブの木に感染して最終的に枯死させる病原菌が発生しており、ヨーロッパでは今後50年間で最大103億ユーロ(約1兆6600億円)規模の損害が発生することが危惧されています。
Xylella Fastidiosa:A Billion-Euro Crisis Brewing in Europe’s Olive Groves
https://www.everymansci.com/society/xylella-fastidiosa-and-olive-oil-a-billion-euro-crisis-brewing-in-europes-olive-groves/
近年のヨーロッパでは「Xylella fastidiosa(ピアス病菌)」と呼ばれる病原菌が問題となっています。このピアス病菌は、植物の道管や根、茎および葉内で増殖し、粘着物を形成して道管を詰まらせます。道管が詰まった植物は水や養分が全体に行き渡らなくなり、最終的に枯死してしまいます。
ピアス病菌に感染したオリーブの木では、葉の黄変や成長の阻害、果実の落下、枯死などの症状が現れるオリーブ急速衰退症候群(OQDS)が発症します。ピアス病菌による作物の被害は、オリーブだけでなく、コーヒーやブドウなどでも報告されており、2020年までに595種類の植物がピアス病菌の宿主植物として特定されています。
ヨーロッパでのピアス病菌の発生の起源は、2008年に中央アメリカからイタリアに輸入された1本のコーヒーの木にさかのぼります。その後、コーヒーの木に感染した最初のピアス病菌はオリーブの木でも繁栄できるように適応し、急速に感染範囲を拡大。2015年時点でイタリア・プーリア州のオリーブの木約100万本がピアス病菌に感染していたとのこと。ピアス病菌はその後も感染拡大を続けており、近年ではヨーロッパ全体で約2000万本以上のオリーブの木がピアス病菌に感染していると見積もられています。
実際にピアス病菌によってイタリアなどではオリーブ農園が壊滅的な被害を受けており、貴重なオリーブの品種である「チェリーナ・ディ・ナルド」「オリアローラ・サレンティーナ」を含む多くのオリーブの木が枯死してしまったことが報告されています。
記事作成時点でピアス病菌に感染した樹木を治療する方法はなく、感染した樹木を伐採して処分するという手法が用いられています。EUでは、作物がピアス病菌に感染した場合、速やかな除去と病原菌の動きを追跡するための監視の強化が義務付けられています。
このままピアス病菌のオリーブの木への感染拡大が続いた場合、イタリアでは今後50年間で52億ユーロ(約8400億円)もの損失が発生すると推定されているほか、ヨーロッパ全体では41億ユーロ(約6600億円)から103億ユーロ規模の経済的損失が発生するとのこと。そのため、近年では多くの科学者がピアス病菌に耐性を持つオリーブの品種の特定と生育に関する研究を進めています。
海外メディアのEveryman Scienceは「ヨーロッパでのオリーブオイル生産の未来は、迅速で協調的な行動にかかっています。ピアス病菌に耐性のあるオリーブの品種とピアス病菌を媒介する害虫の優れた駆除方法の研究を続けることが不可欠です。また、ヨーロッパ諸国は、ピアス病菌のさらなる拡散を防ぐための規制強化に取り組む必要があります」と指摘しました。
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