外来種の多くは本来の生息地で絶滅の危機にあるという「自然保護のパラドックス」
人間によって持ち込まれるなどした外来種により、その地域に生息していた在来種に大きな悪影響が及ぶという問題は長年にわたり議論の的になってきました。一方で、外来種の中にはもともと生息していた自生地で絶滅の危機に瀕しているものもあるといいます。どのような外来種が絶滅しかかっているのか、数の少ない外来種を果たして駆除すべきなのかといった問題について、専門家が解説しています。
The Society for Conservation Biology
https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/conl.13069#pane-pcw-references
A nature conservation paradox: Invasive species are often threatened in their native habitat
https://phys.org/news/2024-12-nature-paradox-invasive-species-threatened.html
ローマ・サピエンツァ大学の動物学者で、国際自然保護連合(IUCN)が定める絶滅危惧種レッドリストの委員会メンバーとしても名を連ねるカルロ・ロンディニーニ氏によると、外来種の中には本来の生息域内で安全に過ごせているものもいれば、絶滅の危機に瀕しているものも存在するといいます。
外来種は哺乳類に限定しても世界的に242種が確認されているそうですが、そのうち約15%、36種が自生地で絶滅しかかっているとのこと。外来種でもあり絶滅危惧種でもある哺乳類は8目に分布しており、最も多いのは偶蹄目、次いで霊長類となっています。科レベルではオナガザル科が多く、次点でウシ科とシカ科。36種のうち6種がIUCNのレッドリストのカテゴリにおける絶滅寸前(近絶滅種)にあたり、9種が次に危うい絶滅危惧、21種が危急にあたるそうです。
外来種は世界的な種の減少の主な原因のひとつとなっていて、ここ数十年の間に世界中で絶滅した種の60%は外来種がその一因になっていると考えられています。本来、外来種は、数を増やさず、生息地を極力拡大させないように対策することが求められますが、一方で外来種が本来の生息地で絶滅の危機に瀕しているとなると、対策すべきなのか、それとも個体群をある程度保護すべなのきかというパラドックスが生じているといいます。
既存の方法では、世界的な絶滅のリスクを評価する際、自生地に生息していない外来種は数に含まれませんが、在来種と外来種の個体数を定量化して考慮することで絶滅危惧種の評価は変化します。
どれくらいの外来種が絶滅の危機に瀕しているのかを定量化する研究を行ったロンディニーニ氏らによると、絶滅の危機に瀕している36種のうち8種のカテゴリが変化したそうです。具体的には、2種が絶滅寸前から絶滅危惧に低下し、1種が絶滅危惧から危急に低下、1種が絶滅危惧から低危険種に大幅低下、2種が危急から準絶滅危惧に低下、2種が危急から低危険種に変更されました。
こうした情報から、ロンディニーニ氏らは「絶滅危惧種の外来個体群を絶滅危惧種の管理保護プログラムに含めるべきです」と指摘。「保全のために外来個体群を利用するコストと利益は、経済的・社会的コストを考慮した様々な枠組みを通じて評価することができます。外来種を飼育下に移すことの実現可能性を評価すると、標本の枯渇を防ぐと同時に、在来種に悪影響を及ぼすことを防ぐのに役立ちます。徹底的な影響評価をすることで、外来種の侵略を助長することなく、必要に応じて保全活動を行うことができます」と述べました。
研究に携わったフランツ・エスル氏は「外来種も絶滅危惧種の評価に含まれていれば、世界的な絶滅のリスクは軽減されるでしょう。しかし、外来種は在来種に悪影響を与える可能性があり、保護のチャンスとリスクを天秤にかけるという難しい課題が立ち塞がることになります」と語りました。
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