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映画「エイリアン」シリーズに出てくるゼノモーフを動物学・生化学的に分析したらこうなる

by geekia

ゼノモーフはリドリー・スコット監督の映画「エイリアン」シリーズに登場する地球外生命体の固有種名で、頑丈な肉体と宇宙空間でも生き残る生存能力、幼体が寄生した人体を内側から食い破って出てくるという凶暴さなどが描かれています。
そんなゼノモーフを動物学および生化学の観点から検討した結果が、オタク文化に関連した科学やテクノロジー分析を行うJournal of Geek Studiesに掲載されています。

Xenomorphia ex machina: the zoology and biochemistry of xenomorphs from the Alien franchise – Journal of Geek Studies
https://jgeekstudies.org/2024/12/02/xenomorphia-ex-machina-the-zoology-and-biochemistry-of-xenomorphs-from-the-alien-franchise/

イタリアのパルテノペ大学で科学技術学部に所属するルカ・トニエッティ氏とイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学で生物学部に所属するギジェルモ・クリメント・ガルガーロ氏の共著によるレポート「ゼノモーフィア・エクス・マキナ:エイリアンシリーズに登場するゼノモーフの動物学と生化学」では、始めにゼノモーフの仮説的に分類学上の検討をしています。通常、分類学では生物のDNA配列を観察しますが、ゼノモーフのDNA配列は定かではないため、生物の器官や組織の肉眼的・可視的な特徴を得る形態学に基づいています。

ゼノモーフはカブトムシのような外骨格構造、昆虫のような体節構造を持っており、陸生節足動物と形態学的には類似性が見られます。また、節足動物の中でも基本的体制や、サソリのような鋏角(きょうかく)が見られることから、鋏角類と分類されます。ゼノモーフが鋏角類のような四肢構造と口器を持ちながら、尾節も鋏角のような形状である前例のない形態であること、加えて地球外が起源の生物であることをふまえて、著者らは新しい分類上の「ゼノモーフ目(Xenomorpha)」「ゼノモーフ科(Xenomorphidae)」「ゼノモーフ属(Xenomorphus)」を提案しています。

ゼノモーフの外骨格は、火炎放射器や銃弾に対して高い防御力を見せるほか、一度破壊された組織の回復力も備えています。節足動物の頭胸部にあたる部位は、重要な感覚器官を保護するヘルメットのような頑丈な頭部に、感覚システムが甲羅のように覆われて統合されています。また、背中のチューブのような構造は、クモ類の蛛形(ちゆけい)類が持つ呼吸器官である書肺(しょはい)に似た化学センサーもしくは呼吸システムだと考えられます。

ゼノモーフの外観で特徴的なのは鋏角(口元)で、クモ類、カブトガニ、ウミグモに見られる口器に類似しています。ゼノモーフの鋏角は作品全体を通して牙、ハサミ、アゴまで透明になっており、捕食したり金属も食い破ったりするパワーがあります。以下は、著者らが類似の例として示したウデムシの鋏角部分。画像をクリックするとモザイクが外れた大きな画像を見ることができます。


また、ゼノモーフの分節された手足には鎌のような爪があり、柔軟性と強度を兼ね備えた四肢となっています。一方で、移動するときは足音を立てずにそっと忍び寄る隠密性があります。移動状態から速やかに攻撃状態に切り替えることができる点は、シャコなどの特徴と一致します。また、手足と同様に自在に動かすことができて攻撃と防御の役割を果たすサソリのような尾もゼノモーフは備えています。ただし、ゼノモーフの尾には毒物質は含まれていない様子。

生物の化学的プロセスを研究する生化学の観点からは、ゼノモーフの特徴的なヘモリンパ(体液)が重要です。ゼノモーフの体液は宇宙船の内部を溶かすほど強力な酸性であり、そのため著者らは「代謝プロセス中に高酸性中間体を生成できる特殊な酵素が存在する」という仮説を立てています。


ゼノモーフのヘモリンパは、シリーズを通して緑や黄色がかった蛍光色で描写されています。生物系において蛍光は特定の分子の存在に起因しますが、ゼノモーフの場合、仮説上の「バイオ蛍光体」が影響していると著者らは指摘。たとえば多環芳香族炭化水素の分子は、光を吸収して再放射する蛍光色の原因になる要素と、酸性条件に対する安定性と耐性があるため、ゼノモーフのヘモリンパに適応する可能性が考えられます。

強力な酸性のヘモリンパを持つことから、ゼノモーフの外骨格も推定できます。極めて強力な酸性のヘモリンパに耐えるための外骨格は、耐熱性や耐薬品性に優れるポリテトラフルオロエチレン(テフロン)が分子候補の1つとして考えられます。

ゼノモーフのさらなる特徴のひとつは、そのライフサイクルにあります。「エイリアン」では最初、宇宙船のクルーに幼体が産み付けられ、宿主を食い破る形で誕生した後、脱皮を繰り返して急速に成長しています。また、「エイリアン2」では、女王種であるエイリアン・クイーンが巨大な卵を産んでいるシーンもあります。そのほか、「エイリアン3」では犬にゼノモーフの一種であるフェイスハガーが感染していたり、「エイリアン:コヴェナント」では独特の寄生特性を示すネオモーフが登場したりと、寄生生物として高い汎用(はんよう)性を示しています。

ゼノモーフのライフサイクルは、実在する生物では、幼虫が植物や動物に寄生して宿主を食べて成長する寄生バチの戦術と一致します。寄生バチの一種には、長い産卵管を使って昆虫の体内深くに卵を産み付けるものがあり、これはゼノモーフやネオモーフの特徴と酷似しています。

著者らはゼノモーフについて「ゼノモーフは従来のサイエンス・フィクションで描かれた地球外を舞台にした映画の知識を、超越する生物として登場します。リドリー・スコット監督とクリーチャーデザイナーのH・R・ギーガーによって創造されたこの生物は、映画や創造的なイメージの中で、恐怖の象徴となる『エイリアン』像となっています。私たちの探求は、映画を超えてこの架空の生物を分析し、エイリアンという力を既知の生物学的多様性の枠組みの中に位置づける試みです」と述べています。

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in サイエンス,   映画, Posted by log1e_dh

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