サイエンス

AIを使いこなせるかどうかは「能力次第」、AIが上位10%のエリート科学者の成果を81%増やしたとの研究結果


AIの発展により、学術研究の分野ではAIを用いた実験データの捏造や生成画像の使用といった問題が懸念されるようになっている一方、AIは研究の能率の向上創薬、新しい物質の構造の発見などで大きな成果を上げています。アメリカ・マサチューセッツ工科大学の博士課程の学生であるエイダン・トナー・ロジャース氏が、AIの支援を受けた優秀な科学者がイノベーションを促進させたとの研究結果を報告しました。

Artificial Intelligence, Scientific Discovery, and Innovation
(PDFファイル)https://aidantr.github.io/files/AI_innovation.pdf

Recent AI paper cites evidence that AI positively impacts scientific R&D | Technology Law Dispatch
https://www.technologylawdispatch.com/2024/11/artificial-intelligence/recent-ai-paper-cites-evidence-that-ai-positively-impacts-scientific-rd/

今回の研究の対象者は、アメリカの大手企業に勤務し、医療や工学、製造などに関連した材料工学を専門としている研究職の科学者1018人です。対象となった科学者らには、特定の特性を持つと予測される新しい化合物のレシピを生成してくれるAIツールが提供されました。


このツールは、既存の素材の構造と特性で訓練されたグラフ・ニューラル・ネットワーク(GNN)から作られたもので、AIは素材を原子と結合の多次元グラフとして表現したり、物理法則を学習して大規模な特性を符号化したりすることが可能でした。そして、科学者はこのAIツールの出力結果を評価し、有望な組み合わせを特定して新素材の合成を行うことができました。

研究の結果、AIの支援を受けた科学者は44%多くの素材を発見し、これにより特許の出願数が39%増加したことがわかりました。AIがイノベーションを加速させたことにより、新しい化合物を使った製品のプロトタイプの開発は17%増加しました。

そのことを示す図が以下。AI導入前の平均を1とした、AIを導入(縦線)してからの新素材の発見数(上)、特許出願数(中)、製品プロトタイプ数(下)の推移がグラフになっています。AIを導入すると、5~6カ月で新素材の発見と特許の出願が増え、1年から1年半後にはその発見を生かした新製品が開発されました。


AI導入コストを考慮すると、この結果は研究開発の効率を13~15%向上させたことになるとのこと。

「この結果には2つの意味があります。まず、AIを活用した研究には可能性があることが示されました。そして、研究開発の後期で完全なボトルネックになることなく、これらの発見が製品イノベーションにつながることが確認されました」とトナー・ロジャース氏は述べました。

AIは科学者の働き方を劇的に変化させ、新素材に関するアイデアを出す工程を大幅に自動化する代わりに、AIモデルが提案した候補の評価という新しい作業を科学者に与えました。

以下は縦軸に科学者らのタスクの時間配分を、横軸に期間をとった図で、各タスクがアイデア生成(青)、評価(緑)、実験(紫)で色分けされています。AIが導入される前、科学者たちは潜在的な新素材のアイデア出しに4割ほどの時間を割いていましたが、AI導入により16%未満になりました。その一方、候補の吟味に費やす時間はほぼ倍増し、実験の時間も増えました。


この研究ではまた、すべての科学者が等しくAIの恩恵を受けられたわけではないことも浮き彫りになりました。

以下は、AIの効果を縦軸に、科学者の生産性を横軸にプロットしたグラフです。生産性が下位の科学者はあまり成果が伸びませんでしたが、上位10%(右端)のトップ科学者は81%も成果を伸ばしました。


生産性が向上した一方で、AIは科学者たちの仕事を退屈にしてしまいました。

以下の図は仕事の満足度を「生産性の変化によるもの(青)」「タスク配分の変化によるもの(緑)」「全体的な満足度(紫)」で色分けして、科学者の生産性ごとにわけたものです。


上図では、生産性が下位の科学者(一番左)はすべての満足度が低下しました。また、優秀な科学者らも生産性が向上したことには満足していましたが、タスク配分が変動したことで大きく満足度が損なわれ、総合的な満足度はマイナスか、最も優秀な科学者のグループでも微増にとどまりました。科学者たちは、潜在的な新素材のアイデアを出す工程にやりがいを感じており、それをAIに横取りされたように感じたのかもしれません。

そのことを裏付けるように、科学者らは仕事の満足度低下の原因について、上から順に「スキルが活用されていない(73%)」「創造性の低下と反復的な仕事の増加(53%)」「成果の帰属配分の問題(21%)」「AIツールの複雑さ(19%)」と述べています。


ある科学者はAIツールについて「性能には感心しましたが、自分がしてきた勉強の多くが無価値になったような気がしてなりません。これは私が経験を積んできたやり方ではありませんから」と漏らしたとのことです。

トナー・ロジャース氏は論文に「AIは新素材の発見を大幅に促進し、特許出願数の増加や製品イノベーションの向上につながることがわかりました。しかし、これは十分に精通した科学者とAIが組み合わさった場合にのみ有効です。なぜなら、一流の科学者は有望なAIの提案に優先順位をつけられますが、そうでない科学者は偽陽性のテストに多大なリソースを浪費してしまうからです」と記しました。

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in ソフトウェア,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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