不安やうつ病に関連する脳の領域「扁桃体」がヒトとサルなどの非ヒトで一部異なることが明らかに
脳内の感情処理をつかさどる「扁桃体」は、その活動が恐怖や不安につながるだけでなく、うつ病を引き起こす可能性が指摘されています。しかし、扁桃体に関しては依然として理解が進んでおらず、科学者たちは時にアカゲザルなどの非ヒト霊長類の扁桃体を対象に研究を行うことがあります。カリフォルニア大学デービス校の研究チームは、ヒトと非ヒト霊長類の扁桃体における遺伝子発現のパターンで異なる細胞が活性化していることを確認しました。
Translational Insights From Cell Type Variation Across Amygdala Subnuclei in Rhesus Monkeys and Humans | American Journal of Psychiatry
https://psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.20230602
The Roots of Fear: Understanding the Amygdala | UC Davis
https://www.ucdavis.edu/news/roots-fear-understanding-amygdala
カリフォルニア大学デービス校心理学部のドリュー・フォックス准教授によると、扁桃体は脳内の感情処理の中心で、恐怖や不安に寄与することが知られており、扁桃体の大きさや構造のバラつきが不安やうつ病などの障害に関連しているかについて長年関心が寄せられてきたとのこと。しかし、これまでの研究で扁桃体のサイズや構造は、うつ病などの神経心理学的関連問題に関連しないことが明らかになっています。
また、げっ歯類を対象とした実験で、扁桃体の各領域には人間と異なる細胞が含まれていることも判明しています。しかし、ヒトやその他の霊長類で神経心理学的関連問題を引き起こす細胞を特定することは困難で、これまで霊長類の扁桃体の細胞環境はほとんど調査されてきませんでした。
研究チームはヒトとアカゲザルの脳からサンプルを採取し、個々の細胞を分離した後、それらのRNAの配列を特定しました。これにより、特定の細胞でどの遺伝子が活性化しているかが示され、遺伝子発現に基づいて細胞をグループ化することが可能になります。フォックス氏は「遺伝子発現に基づいて細胞をクラスター化することで、細胞の種類とその発生起源を特定することができます」と述べています。
研究の中でチームは、「FOXP2」と呼ばれる遺伝子を発現するための細胞群「インターカレート細胞」が扁桃体の端にあることを特定しており、げっ歯類ではこの細胞群が扁桃体に出入りするシグナルトラフィックを制御する「ゲートキーパー」としての役割を果たすことを実証しています。今回の発見により、インターカレート細胞がFOXP2の障害に対する治療法を開発するための強力な手段となる可能性が示唆されました。
さらに今回の研究は、投与した薬物の標的となる細胞を特定することにも役立つそうです。具体的には、FOXP2を発現する細胞が不安関連遺伝子と神経ペプチドFF受容体2(NPFFR2)と呼ばれる受容体の両方を発現する傾向にあることから、不安関連障害に対する潜在的な標的としてNPFFR2だけを活性化する薬物の開発につながり、新たな治療戦略を生み出す可能性があります。
また、研究チームはヒトの扁桃体と非ヒト霊長類の扁桃体の間における類似点と相違点の両方を特定することに成功しています。この発見は、不安障害や自閉症などの研究における動物での実験モデルが、人間とどのように関連しているかを理解するために重要とのこと。
フォックス氏は「不安神経症は、さまざまな形で現れる可能性のある複雑な障害です。関与する細胞の種類をより深く理解することで、多くの人々の影響を与える『チョークポイント』を特定し、治療することができるかもしれません。扁桃体を標的とする薬物を開発するために、どの細胞を標的とすべきなのかを我々は知りたいのです」と語りました。
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