自分で設立し4年間経営したハードウェア会社の事業売却でうまくいったことや驚いたこととは?
Raspberry Piを用いてPCをリモート操作するシステムを開発する企業・TinyPilotは、2024年4月に59万8000ドル(約9200万円)で売却されました。TinyPilotの創設者で前所有者だったマイケル・リンチ氏が、企業売却においてうまくいったことや今後改善したいこと、驚いたことを自身のブログにまとめています。
Lessons from my First Exit · mtlynch.io
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リンチ氏はうまくいった施策の1つとして、文書化への投資を挙げています。リンチ氏によると、NotionワークスペースにPlaybookを作成し、チームのオンボーディングや日常業務の手順を体系化していたとのこと。これにより、新オーナーへの引継ぎが極めて円滑に進み、予定された80時間のコンサルティング時間のうち、実際には25時間程度しかかからなかったそうです。また、ブローカー会社との協力関係も成功の鍵となった、とリンチ氏。手数料は売却価格の15%と高額だったそうですが、適切な買い手を見つけ、取引を円滑に進める上で価値のある支援を受けられたと述べています。
加えて、売却金の分割払いを避けたことも賢明な判断だったとのこと。知り合いの経営者からは「分割払いを受け入れると、事実上買い手のために働き続けることになり、支払いが滞った場合の法的な回収も困難になる」とアドバイスを受けたそうです。また、リンチ氏は自身が債務不履行に陥った場合にローンを回収するためのツールや経験を持っていないことも理由に挙げています。
一方で、改善すべき点も多く見つかったとのこと。例えば、デューデリジェンスに3カ月もかかり、その間に事業への集中が難しくなったため、現金での一括払いを選ぶ買い手にインセンティブを提供すべきだったとリンチ氏は省みています。
また、重要な契約条項について、デューデリジェンスの開始前に協議しておくべきだった、とリンチ氏。契約書の初稿を見たのはデューデリジェンス開始から5週間後で、その時点では多大な時間を投資した後だったため、交渉力が弱まってしまったとのこと。
さらに、チームへの売却告知も課題でした。リンチ氏はブローカー会社との契約時点、つまりクロージングの6カ月前にチームに告知しましたが、これにより一部のマネジメント面での課題が生じたそうです。リンチ氏は「次回があれば、売却が確実になるまで告知を待つべきと考えています」と述べました。
そして、リンチ氏はGoogleとのやりとりについてかなりネガティブな経験を共有しています。TinyPilotのサービスの一部でGoogle Cloud Platform (GCP)を使用していましたが、これらはリンチ氏の個人Googleアカウントの専用プロジェクトとして設定されていました。
GCPのプロジェクト設定ページには「移行(Migrate)」というボタンがありましたが、実際にクリックしてみると単純に移行できないことが判明。Googleの公式ドキュメントを確認しても、プロジェクトの移行手順は複雑で不正確な情報が含まれていました。結局、新しいオーナーと両者がGoogle Workspaceの有料アカウントを作成し、複雑な移行プロセスを実行する必要があることがわかりました。Google Driveに保存されていた文書やメモについても同様の問題が発生しました。
最終的に、新オーナーは正式な移行手続きが面倒すぎると判断し、可能なものだけエクスポートして残りは削除することにしたとのこと。この経験から、リンチ氏は個人的にも仕事においても、Googleへの依存をさらに減らすべきだと強調しています。
リンチ氏は企業売却において驚いた点として、デューデリジェンスの作業量の多さを挙げています。銀行取引明細の提出や、顧客データを保護しながら各種レポートを作成する必要があり、ミスが許されない緊張感の中での作業となり、負担が大きかったそうです。
また、売却準備期段階では全ての支出が実質的に4倍のコストになることも驚きだったとのこと。例えば、年間利益が10万ドル(約1500万円)で、同様の企業が年間利益の3倍で売却されると仮定した場合、企業の売却価格は約30万ドル(約4600万円)となります。この時、従業員ボーナスに合計1万ドル(約150万円)を支給した場合、年間利益が9万ドル(約1350万円)に減少し、企業価値が27万ドル(約4200万円)に減ってしまいます。
そして、非競争条項と責任制限についても重要な学びがあったとリンチ氏は述べています。
非競争条項については通常の雇用契約とは異なり、売主が十分な交渉力と契約内容の認識を持っていたとみなされるため、企業売却時の契約では裁判所がより厳格な判断を下す傾向があるとのこと。そのため、リンチ氏は弁護士と慎重に契約内容を確認し、非競争の範囲を特定分野に限定し、ソフトウェアやテクノロジー全般には及ばないようにしました。
また、責任制限については、通常LLC(合同会社)として事業を運営する場合、損失は事業の価値に限定されます。しかし事業を売却すると、この有限責任の保護がなくなるため、適切な制限を設けなければ買い手から売却価格を超える訴訟を起こされる可能性があります。リンチ氏の場合、買い手側の弁護士が当初責任の上限を設定しないことを望んだそうですが、リンチ氏側の弁護士が強く反対した結果、売却価格を上限とすることで合意したそうです。
リンチ氏は、「小規模企業の売却に関する情報が非常に限られている中で、自身の経験を共有することで他の創業者の参考になることを望んでいます」と述べ、参考になったさまざまな著書やポッドキャストを紹介しています。また、他の創業者との対話も非常に有益だったと述べ、直接の知り合いでなくても、友人を通じて企業の売却経験のある人々と話す機会を得られ、そこから多くの実践的な洞察を得ることができたと振り返っています。
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