嗅覚がある人とない人では呼吸の仕方が違うことが判明、心身の健康状態に影響を及ぼしている可能性も
視覚や聴覚などの感覚と比較すると、嗅覚はあまり重要視されていない感覚です。実際、2011年の調査では16~22歳の若者の半数以上が、「携帯電話やノートPCなどのテクノロジーを失うくらいなら嗅覚をなくした方がマシ」と回答しています。新たな研究では、「嗅覚のある人とない人では呼吸の仕方が違う」ことが判明し、この違いが嗅覚を失った人の健康状態に影響している可能性があるとのことです。
Humans without a sense of smell breathe differently | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-024-52650-6
Your Sense of Smell Changes The Way You Breathe, Study Reveals : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/your-sense-of-smell-changes-the-way-you-breathe-study-reveals
嗅覚は見過ごされがちな感覚ですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症で嗅覚を失った人は、食事の匂いを嗅ぎ取れない違和感は大きいと感じています。また、嗅覚のない高齢者は嗅覚がある高齢者と比較して死亡リスクが3倍になるという研究結果もあるなど、嗅覚は実のところ人間の心身に大きな影響を及ぼしていることが示唆されています。
以前の研究で、空気中の匂いの強さが弱まると鼻から吸い込む空気の量が相対的に増えることがわかっています。また、寝ている間であっても空気中に強い匂いが漂うと、鼻孔から吸い込む空気の量が減るとのことです。匂いの強さによって呼吸の仕方が変わるということは、嗅覚の有無も普段の呼吸に影響を及ぼしている可能性があります。
イスラエル・ワイツマン科学研究所の研究チームは、嗅覚を持たない21人と嗅覚が損なわれていない31人の被験者を対象に、「鼻を通る空気の流れ」を測定する実験を行いました。被験者は鼻からの空気の流れを測定するウェアラブルデバイスを着けたまま食事をしたり、人と話したり、眠ったりして普通の1日を過ごしたとのこと。
24時間にわたって被験者の呼吸をモニタリングしたところ、匂いを嗅ぐことができたグループは呼吸のたびに複数回のわずかな抵抗があり、息を吸い込むピークが1時間あたり240回も小刻みに現れました。一方、嗅覚のない人々ではこの小刻みなピークがなく、呼吸の仕方が明確に異なっていることが判明しました。
以下の図は、左(C)が嗅覚のない人が息を吸い込む量を示したグラフで、右(D)が嗅覚のある人が息を吸い込む量を示したグラフです。グラフの範囲内でそれぞれ4回呼吸を行っていますが、嗅覚のない人は各呼吸ごとに1回のピークだけがある一方、嗅覚のある人は呼吸のたびに2~3回の細かいピークがあることがわかります。
嗅覚の有無によって異なる呼吸の仕方が、人々にどのような影響を及ぼしているのかは不明です。しかし、人間の脳機能が呼吸と強く関連していることを考えれば、嗅覚の有無は生活の質だけでなく健康に生理学的・精神的な影響を及ぼしている可能性もあると研究チームは主張しました。
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