「人が自分の体臭に気づかないのはなぜ?」など人間の嗅覚と体臭の疑問を専門家が解説
「我が身の臭さ我知らず」ということわざがあるように、人は他人の体臭や口臭には敏感でも、自分の匂いにはなかなか気づかないものです。そんな嗅覚と体臭の関係について、科学系ニュースサイトのLive Scienceが専門家の話を元に解説しました。
Why can't we smell ourselves as well as we smell others? | Live Science
https://www.livescience.com/planet-earth/evolution/why-cant-we-smell-ourselves-as-well-as-we-smell-others
人間は、犬や豚などの動物に比べて嗅覚が劣っているとよくいわれますが、実は決して鼻が鈍いわけではありません。Live Scienceによると、人の鼻には400の嗅覚受容体により10系統の匂いを嗅ぎ分ける能力があり、「嗅覚は人間が最初に進化させた感覚のひとつ」とも考えられているとのこと。また、狩猟採集民として進化してきた歴史のおかげで、植物の芳香成分を感知することにかけては犬よりも得意だということもわかっています。
こうした優れた嗅覚を持つ人間が自分の体臭には鈍感な理由について、アメリカ・デューク大学の分子神経生物学者である松波宏明氏は「脇をかげば臭うのを感じることからわかるように、決して自分の体臭を嗅げないということはありませんが、時間がたつにつれて特定の匂いには鈍感になります」とLive Scienceに話します。松波氏によると、体臭だけでなく香水や家の中の匂いなど、日常的にかいでいる匂いにも同じことが当てはまるとのことです。
「嗅覚疲労」と呼ばれるこの現象は完全には解明されておらず、嗅覚受容体が変化しているのか脳の反応が変化しているのかはわかっていないそうです。
また、アメリカ・ブラウン大学の神経学者であるレイチェル・ハーズ氏は「体臭は食事や体調などによって変化することがあり、特定の状況では自分の匂いを感知する能力が高まることもあります」と指摘します。
例えば、ニンニクが利いた料理を食べた時や、ストレスを感じた日は、汗や唾液が臭くなることがあります。他にも、治療を受けていない糖尿病の患者の口臭は腐った果物のような匂いがすると言われているほか、腸チフスの患者の汗が焼きたてのパンのような臭いになることもあるとのこと。
パーキンソン病で夫を亡くしたある女性は、診断前から夫の体臭が変化していたことに気づいたと証言しており、その後の実験でシャツの匂いからパーキンソン病患者を正確に言い当てることができました。この女性の能力をヒントに、科学者らは皮脂の成分からいち早くパーキンソン病患者を特定する技術の研究を進めています。
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by Dennis Wong
体臭は健康状態だけでなく、社会的な人間関係とも深い関わりを持っています。女性に男性のシャツの匂いをかいでもらった1995年の研究では、女性がそれぞれ強い好みを持っていることが判明し、研究者らはこれを「免疫系が病原体を識別するのに使うタンパク質に関連した主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる一連の遺伝子によるものだ」と指摘しました。女性たちは、自分とは違うMHC遺伝子を持つ男性の匂いを好む傾向があったとのことで、松波氏はこれについて「MHC遺伝子の組み合わせが異なる人との間に子どもをもうけることで、その子どもがより多くの病気に対する免疫を持つ可能性があります」と話しています。
遺伝的に異なる異性の匂いを好きになるのと同様に、人間は匂いを頼りに相手が同じような環境で暮らしていることを判断し、交友関係を構築します。実際に、過去の研究では仲のいい友人同士は体臭が似ていることが突き止められました。
仲のいい友人同士は「体臭」も似通っている - GIGAZINE
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、患者が嗅覚を失ってしまう事例が多く報告されていることから、人々の間で嗅覚への関心が高まりました。ハーズ氏によると、患者の嗅覚受容体や嗅覚に関する神経細胞が破壊されているわけではないため、なぜ嗅覚が失われるのかは不明とのこと。ハーズ氏は「私は、匂いへの関心がこのまま廃れることなく、人々に『匂いは私たちの生活全般に結びついているものだ』という認識を持ち続けてほしいと思っています」と話しました。
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