登場人物による「タイトル回収」は何%の映画で行われているのか?
タイトルドロップは物語の技法のひとつで、作品のタイトルを作中の人物が口にすることを指し、日本では近い表現で「タイトル回収」と呼ばれることもあります。では、映画の「タイトル回収」はどれぐらいの頻度で行われているものなのか、過去80年の7万3921本の作品を対象に分析した結果を、データ視覚化デザインの研究者であるドミニク・バウア氏が解説しています。
Full of Themselves: An analysis of title drops in movies
https://www.titledrops.net/
タイトル回収は作品のタイトルを含むセリフで、作中の象徴的なセリフになったり、タイトルに含まれる意外な目的に気づかされたりといった強い効果を持ちます。バウア氏によると、タイトル回収の最も古い例は、1911年にセルビアとバチカン半島で公開された最初の長編映画である「カラジョルジェ」まで遡るそうです。その後、技法として確立したことも相まって、タイトル回収は現代まででより一般的になり、タイトル回収を用いる作品の数は大きく増えていると考えられます。
タイトル回収がどれくらいの映画で行われているかについては、「印象的なタイトル回収のシーンがある作品リスト」などがあったり、多くの映画で集計して分析したデータが過去にもあったりとしばしば注目されていますが、過去の分析データは1200本程度を対象としており、包括的とは言い難いものでした。そこでバウア氏は、ストリーミングコンテンツに関連する情報を集めたオンラインデータベースであるIMDbにおいて少なくとも100のユーザー投票がある1940年から2023年の映画作品7万3921本を対象に、タイトル回収に関する詳細な分析を実施しています。バウア氏によると、これは映画全体の約60%に該当し、タイトル回収に関する初の詳細な分析と言えるそうです。
分析ではまず、IMDbにある映画のメタデータ12万1797本と、映画やドラマの字幕データベースである「OpenSubtitles.com」にある8万9242件の英語字幕を結合し、字幕付き映画のデータセット7万3921本をフィルタリングしました。
完成したデータセットで、タイトルが字幕の中に含まれるか分析すればタイトル回収の数は測定できますが、ここで問題が発生しました。たとえば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように特徴的なタイトルの場合、「ドクがマーティに『未来へ帰ろう』というシーン」というように特定が簡単です。しかし、たとえば「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」の原題である「It」は一般的に使用する単語なので、作中に多数登場します。また、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」においても、シリーズ2作目でマーティがドクに「未来へ帰ろう」と語る印象的なシーンで、「Back to the Future Part 2」とタイトルそのままのセリフを口にすることはないため、単純な機械的分析では難しい部分があります。
そこでバウア氏は、セリフとタイトルの一致にいくつかのルールを適用しました。ルールには、タイトル先頭の「A」「The」やダッシュ記号などは無視する、続編を示す番号や「Episode」「Part」などは省略する、「ハリーポッターと賢者の石」のように副題がある場合は「ハリーポッター」「賢者の石」と分割してどちらかの一致をタイトル回収としてカウントする、などが含まれます。
結果として、分析対象となった7万3921本の映画のうち、少なくとも1回のタイトル回収を含む作品は全体の36.5%、2万6985本あったとのこと。タイトル回収のカウント回数は総計で27万7668回で、タイトル回収のある映画1本あたり平均10.3回のタイトル回収があるという集計結果になります。
作品タイトルが登場人物の名前になっている場合、その登場人物が名前を呼ばれるたびにタイトル回収が起きるため、自然と回数が多くなります。分析によると、登場人物がタイトルになっている作品では平均して24.7回のタイトル回収が発生しており、これはその他タイトルの2倍以上となります。また、少なくとも1回のタイトル回収を含む作品は全体の36.5%でしたが、主人公にちなんで名づけられた映画のタイトル回収率は88.5%あり、その種の映画を除くとタイトル回収率は34.2%まで下がります。
特にタイトル回収回数が多かったのは2023年公開の「バービー」で、1時間54分の上映時間中にタイトルが267回も登場します。また、ドキュメンタリー映画の「ミッキーマウス:ザ・ストーリー」では、90分間に309回「ミッキー」というセリフがあり、1分あたり3.43回ミッキーが登場したことになります。
バウア氏の分析結果による、タイトル回収の回数が多い映画トップ5は以下の通り。タイトルの下にある画像は、フィルムの横幅が作品の長さを示しており、フィルム内の白い縦線がタイトル回収のシーンです。
・ミッキーマウス:ザ・ストーリー
・バービー
上記の分析結果を受けて、何度も繰り返しタイトルがセリフに出されるのは意図的なタイトル回収ではないことも多く、ここぞという場面でタイトルを口にすることこそタイトル回収であるという意見も考えられます。そこでバウア氏は、「作中で1回のみタイトル回収がある作品」を改めて集計したところ、映画全体の11.3%が該当しました。バウア氏は「複数のタイトル回収がある映画は、タイトル回収1回のみの作品の約2倍でしかありません。1回のみの場合、映画製作者がタイトル回収を意識的にしている可能性が高く、その割合は驚くほど高いものでした」と述べています。
以下は、タイトル回収を含む映画の数を年代別にまとめたグラフ。1940年代から1970年代にかけては減少傾向にありましたが、そこから2020年代までは増加傾向にあり、2020年代は全体の40%を越えています。
また、以下のグラフは年代ごとのタイトル回収率を、複数回のタイトル回収と単一のタイトル回収で分けて表現したもの。グラフ下部の薄いイエローが単一の回収がある映画ですが、その割合は1940年代から2020年代でそれほど変わっていません。一方で、複数回タイトル回収する映画の割合は、1970年代からかなり増加していることがわかります。その原因としてバウア氏は、主人公にちなんで名づけられる映画が増えている可能性や、映画が作品性より興行性を売りにしたことでタイトルをブランド認知してもらうために作中で連呼している可能性を挙げています。
そこでバウア氏が追加で分析したのが「タイトル回収の回数が多いと映画の評判に影響を与えるか」という点。ブランド認知のためにタイトルを強引に連呼するようなケースは、見ている人に違和感を与えるため映画の評価が落ちる可能性があります。しかし、IMDbにおける評価が低いものから高いものまでタイトル回収率はほとんど一定で、タイトル回収と映画の評価はほとんど関連性がないと判明しました。
最後に、映画のタイトル回収率は、タイトルが長くなると下がるという負の相関関係があります。バウア氏の分析はアメリカ版のタイトルと英語字幕で行われていますが、映画のタイトルが単純な単語になりやすいか独自のワードや文章になりやすいかは国によって傾向があるため、分析する国や言語によってタイトル回収率は変わる可能性があります。タイトルが長くてもタイトル回収された例として、バウア氏は「劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編」を挙げていますが、英語タイトルは「That Time I Got Reincarnated as a Slime the Movie: Scarlet Bond」であり、元となる日本の映画ではタイトル回収とカウントされない可能性があります。
バウア氏のサイト末尾では、映画のタイトルを検索することで、その作品にタイトル回収があるかどうかをチェックすることができます。検索窓をクリックして、映画の英題を入力。
「君の名は。」の英題である「Your Name.」で検索し、ヒットしたタイトルをクリック。
「君の名は」におけるタイトル回収の分析結果は「0」でした。このように、英題と一致する英語訳のセリフのみになりますが、データベースにある作品からタイトル回収数を検索することができます。
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