サイエンス

田舎に住む男性は「都市部の男性より短命」なことが判明、一体なぜ?


都会の環境は心身の健康に有害で、例えば都市生活にはうつ病の原因物質が多いとの研究結果や、交通騒音がひどい場所に住むと認知症のリスクが高まるとの研究結果がこれまでに報告されています。しかし、農村部に住む人と都市部に住む人の平均余命を分析した新しい研究により、特に男性は農村部に住む人の方が不健康で寿命が短く、その地域格差は時とともに悪化していることがわかりました。

The urban–rural gap in older Americans’ healthy life expectancy - Chapel - The Journal of Rural Health - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jrh.12875

Growing divide: Rural men are living shorter, | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1059124

Rural Americans are dying younger, living less healthy lives, alarming report reveals
https://studyfinds.org/rural-americans-dying-younger/

南カリフォルニア大学シェーファー健康政策・経済センターのジャック・M・チャペル氏らは、査読付き医学雑誌「The Journal of Rural Health」で発表した研究で、高齢期にさしかかった人の寿命と健康に暮らせる期間を予測するシミュレーションを行いました。


健康に関するデータには、ミシガン大学が約2万人の中高年を対象に実施している健康調査「健康と退職に関する調査(Health and Retirement Study)」の結果が用いられました。また、シミュレーションには高齢者の寿命を個人単位で予測するマイクロシミュレーションモデルである「未来の高齢者モデル(The Future Elderly Model)」が使われました。

分析の結果、地方に住む男性は都市部の男性より早死にする傾向があり、健康な老後を過ごす可能性も低いことがわかりました。


具体的には、2014年~2020年の間に60歳になった農村部の男性は都市部に住む同じ年齢の男性より2年ほど短命で、その差は1994年~2000年のほぼ3倍になっているとのこと。また、健康的に生きられる年数は1.8年短く、この数字もやはり20年間で倍増していました。

一方、女性は男性に比べて地域格差が小さく、時間の経過とともに格差が拡大する速度もはるかに遅いという結果でした。

以下は、上記の結果をグラフにまとめたもので、アメリカの都市部(黄色の線)と農村部(茶色の線)に住む人の60歳時点での平均余命(LE)質調整生存年(QALE)を男性(左)と女性(右)とで比較しています。例えば、健康寿命の指標のひとつであるQALEを見てみると、2014年~2020年における60歳の男性のQALEは都市部では17.5年と予測されるのに対し、農村部の男性はわずか15.7年しかありません。

by USC Schaeffer Center for Health Policy & Economics

なぜこのような差が生まれるのかを解明するため、チャペル氏らは慢性疾患、障害率、生活習慣などさまざまな要因を調べました。その結果、農村部に住む人は喫煙率や肥満率、慢性疾患を患う確率が高く、これが晩年の健康状態を悪化させていることがわかりました。

健康の格差を広げている大きな要因のひとつが教育で、研究チームが都市部と農村部の教育レベルをそろえてシミュレーションしたところ、差は半分にまで縮まったとのこと。特に、大卒の人はどこに住んでいるかにかかわらず健康状態が非常に良好でした。

今回の研究結果は、地方での介護需要の高まりや、若者が都市部に移住するにつれて加速する高齢化と潜在的な介護の担い手の減少を浮き彫りにしています。また、地方では都市部より医療従事者が不足する傾向があることも課題となっています。


チャペル氏は、「地方の住民は慢性疾患の罹患(りかん)率が高く、これは健康的な老後にとって深刻です。高齢化と医師の数の減少により、自治体の負担は増大し、将来健康問題に直面する人々への医療提供にも大きな課題が生じるでしょう」と話しました。

また、論文の共著者であるブライアン・タイシンガー氏は、「高齢者の健康寿命における地域差を縮めるには、若いうちから健康に関する行動を改善するよう奨励し、特に農村部では社会的、経済的な改善を幅広く行う必要があります」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
生活習慣だけでなく「どこに住んでいるのか」が寿命に大きな影響を与えるとの研究結果 - GIGAZINE

貧困層よりも富裕層の方が10年から15年長生きできる - GIGAZINE

異常なほど住民が早死にする街「グラスゴー」は一体なぜ生まれてしまったのか? - GIGAZINE

平均寿命にも地域間格差が厳然とあり、その差は徐々に広がっている - GIGAZINE

「貧富の差が健康寿命を大きく左右している」ことが改めて示される - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.