サイエンス

エリートアスリートは一般的な人々よりも賢い


「一流のアスリートは優れた身体能力を持っていたから成功した」と考えている人は多いかもしれません。ところが、実のところアスリートが成功する要因は身体能力だけでなく、「優れた認知能力」も重要であるとセントラルクイーンズランド大学の心理学講師であるアントニオ・フィルゲイラス氏が解説しています。

Elite athletes are generally smarter than us – cognitive sciences can explain why
https://theconversation.com/elite-athletes-are-generally-smarter-than-us-cognitive-sciences-can-explain-why-234665


MLB史上に残る名選手であるベーブ・ルースは、打者として通算714本塁打・2213打点・OPS1.164といった優れた成績を残し、実に12回もの本塁打王に輝きました。ところが、ルースは決して練習が好きというわけではなく、どちらかというとぽっちゃりした体形で、パーティーで飲酒したりギャンブルに興じる姿もよく見られたとのこと。

ヤンキースに所属していたルースが54本塁打を放って本塁打王に輝いた1902年、ニューヨーク・タイムズ紙のスポーツライターだったヒュー・フラートンが、コロンビア大学の心理学研究室を訪れました。そして、「なぜルースは身体能力が人並み優れているようには見えないのに、これほど優れた成績を残せるのか?」という疑問をぶつけたとのこと。

フラートンの疑問に答えるため、心理学研究室の大学院生らがルースの認知機能をテストしたところ、注意力・記憶力・認知課題など行われたすべてのテストで、ルースは平均よりも優れたスコアを記録しました。フラートンはこの結果を受けて、「Why Babe Ruth is greatest home-run hitter(ベーブ・ルースが最高のホームランバッターである理由)」という記事を書きました。


これらの高レベルな認知機能がエリートアスリートに共通する特性なのか、それともルースに特有のものなのかをスポーツ科学者が突き止めるには、さらに1世紀近くかかりました。

フィルゲイラス氏らの研究チームが2018年に発表したメタアナリシスでは、アスリートはスポーツ関連の意思決定を行う際、注意・記憶・運動制御に関する脳領域が活性化していることが報告されました。

さらに2022年のメタアナリシスでは、アスリートと一般人を含む5339人分のデータを分析した結果、プロスポーツ選手の注意力と意思決定のスコアは一般人と比べて有意に高いことが判明。つまり、優れたアスリートは認知機能が一般人よりも優れている傾向が確認されたというわけです。


エリートアスリートのような優れた意思決定者は、与えられた状況の潜在的な結果を頭の中でシミュレートするため、複数の認知スキルに依存しています。たとえば、ラグビーの試合でトライラインに近い位置で自分がボールを持っている場合、フィールド上の仲間や敵の位置を考慮して自分で走るべきかパスを出すべきかを決め、走るならどのようなルートを選択するのか、パスを出すなら誰にどうやって出すのかを瞬時に判断しなくてはいけません。

これには、フィールドを視覚的にスキャンして余計な思考に気を取られない注意力、すべての選択肢を処理しながら情報を保持する記憶力、同じプレイをさまざまな角度から検討する創造力が必要です。注意力・記憶力・創造性という3つのスキルにはそれぞれ「inhibitory control(抑制制御)」「working memory(ワーキングメモリ)」「cognitive flexibility(認知的柔軟性)」という名称が付けられています。

この3つは複雑なタスクを行うために脳が使用する主要な実行機能であり、サッカーの1部リーグに所属する選手(トッププロ)と4部リーグの選手(セミプロ)を比較した2012年の研究では、すべての実行機能で1部リーグの選手が4部リーグの選手を上回りました。同様の結果は過去10年に行われたその他の研究でも確認されているとのことです。


フィルゲイラス氏は、「エリートアスリートは認知の柔軟性と抑制において普通の人々よりも優れており、コート内外でより賢明な判断をする可能性があります」「練習の積み重ねとちょっとした生物学的な要素が、ほとんどのエリートアスリートを私たちよりも賢くしているのです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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