サイエンス

オリンピックで活躍する人の「アスリート脳」は一般人と何が違うのか?


オリンピックのメダリストのような第一線のアスリートは、並外れた身体能力を持つことはもちろんのこと、脳の機能も一般人とは大きく異なることが少しずつわかってきています。そんなエリート選手の脳の秘密に迫った複数の研究を、サイエンス系ニュースサイト・ScienceAlertがまとめました。

Olympics: The Brains of Elite Athletes Reveal Crucial Differences : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/olympics-the-brains-of-elite-athletes-reveal-crucial-differences

◆聴覚
オリンピックの舞台に立つ選手は、会場のアナウンスや声援などの騒音の中から、スタートの号砲や審判の指示を正確に聞き取らなければなりません。

アメリカ・ノースウェスタン大学の研究者らが行った2019年の研究によると、スポーツの成績がトップクラスの学生アスリートは、年齢と性別が同じ対照群より音に対する反応が大きかったとのこと。

by Jon Osborne

しかし、どのような音に対しても敏感というわけではなく、アスリートは余計なノイズを遮断することで、気を散らすことなく必要な音に集中することができます。このことは、脳波の測定により得られたアスリートの聴覚処理の「信号対雑音比(SNR)」が、非アスリートのSNRより大きかったことにより導き出されました。

必要な音だけを鋭く聞き分ける能力は、コーチの怒声の中で練習に集中してきた成果の可能性もありますが、研究対象となったスポーツ選手の中には、ゴルフのような静かな環境でプレーする競技の選手もいたとのことです。

研究結果について、論文の筆者らは「この知見は、スポーツをすることでバックグラウンドの雑音が減少し、聴覚信号のゲインが増加することを示唆しています。このような増強モードは、アスリートの全体的なフィットネスレベルや、競技中の聴覚刺激に反応する必要性の高まりと関連している可能性があります」と記しました。


◆視覚
別の研究では、アスリートは耳だけでなく目から入ってくる情報の取捨選択にも秀でており、あちこちに目移りすることなく目標だけをまっすぐに見つめることもわかりました。

このような優れた選手に特有の落ち着いた目の動きは「静かな目(quiet eye:QE)」と呼ばれており、より正確には「重要な動作を開始する直前の最終段階における視線の固定」と定義されています。

テニスプレイヤーの目の動きをアイトラッカーで調べた2018年の研究によると、高スキルの選手や、高得点につながるショットを放った選手は、QEの継続時間が長かったとのこと。


QEの長さがテニス選手のパフォーマンスに影響するのは、高速で接近するボールの軌道計算のために十分な時間を確保することができるからだろうと研究チームは推測しています。

この知見を手がかりに、研究チームがスポーツに関するほかの文献をあたったところ、技量とQEの時間と間の関連性はテニスに限らないことも確かめられました。

◆脳の回路
運動は主に脳の外層にあたる皮質によって制御されていますが、一流のダイバーは空間認識や体の動きの知覚に関する領域の皮質が厚いことが判明しています。

また、やり投げと走り幅跳びで高度な技術を持つ3人のトップアスリートの脳を調べた2015年の研究では、アスリートとそうでない人は皮質と、線条体と呼ばれる一連の動作を順序立てる上で重要な領域をつなぐ経路も強化されていることがわかっています。


こうした能力には厳しいトレーニングで培われる部分もあれば、天性の才能と言える部分もあります。例えば、イタリア・パルマ大学の研究者らが一流のスポーツ選手のDNAを調べた2015年の研究によると、運動調節やエネルギー消費、報酬系などを調整しているホルモンのドーパミンに関する遺伝子とスポーツのパフォーマンスとの間には有意な関連があったとのこと。一方、筋肉の発達に関する遺伝子は特に関連性が見られませんでした。

こうした点からScienceAlertは、「金メダル獲得に向かって自らを奮い立たせている選手たちは、自分の脳を、体を限界まで追い込むことができるエンジンに作り替えようとしているのでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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