物理学者が作った世界で最も凶悪な迷路
イギリスとスイスの物理学者らが、恐ろしいほど難しい迷路を生成する方法についての研究結果を発表しました。この発見は、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーへの応用が期待できるとされています。
Physical Review X - Accepted Paper: Hamiltonian cycles on Ammann-Beenker Tilings
https://journals.aps.org/prx/accepted/9c077K95P1d1d60727e054a929069cafd5b559c87
Physicists Have Created The World's Most Fiendishly Difficult Maze : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/physicists-have-created-the-worlds-most-fiendishly-difficult-maze
イギリス・ブリストル大学の理論物理学者であるフェリックス・フリッカー氏らの研究チームは今回の研究で、フラクタル幾何学とチェスの駒の動かし方を探る数学的パズル「ナイト・ツアー」に着想を得て、準結晶と呼ばれる自然にはほとんど見られない物質のパターンを説明するアルゴリズムを導き出しました。
以下がその迷路の例です。迷路の脱出方法は後述します。
ナイト・ツアーとは、「前後左右2マス先の左右のマス」にジャンプできるという独特な動きをするナイトのコマを使って、チェス盤の全てのマスを訪問するというもので、これはすべての頂点を1回ずつ通過するハミルトン閉路の一種でもあると、フリッカー氏は説明します。
フリッカー氏らは並進対称性、つまりある部分を並行に移動させるとぴったり重ねることができる性質を持たない準結晶におけるハミルトン閉路を研究することで、物質の構造の理解が深まると考えました。
そして、研究チームが準結晶の典型的な構造のひとつであるアマン・ベーカータイルの2次元パターン上でハミルトン閉路を生成した結果生まれたのが、前述の迷路というわけです。
この太線がアマン・ベーカータイルです。
こうして生成された回路は、準結晶の各原子を1回ずつ通過し、重なることなくすべての原子を一筆書きでなぞる線を結びます。そして、これは無限に拡大・縮小することが可能で、最小の部分がより大きな部分に似ているフラクタル構造を呈します。
この線でスタート地点と出口のある迷路を描くと楽しく暇をつぶせますが、それ以外にも準結晶構造のハミルトン閉路を特定する理論は巡回セールスマン問題を解いて走査型トンネル顕微鏡を使った準結晶の最適な構造解析方法を見つけたり、物質を反応させるのに最も適した形状を特定して触媒技術を効率化させたり、タンパク質がフォールディング、つまり折りたたまれる過程を理解して医療や創薬に役立てたりと、さまざまな分野への応用が期待できるとのこと。
論文の共著者であるブリストル大学のショブナ・シン氏は「私たちの研究は、準結晶が結晶よりも優れた吸着性能を有する可能性を持つことを示しています。例えば、柔軟な分子は規則正しく原子が並んだ結晶より不規則な準結晶に吸着しやすいですし、準結晶はもろくて簡単に小さな粒に砕けるので、物を吸着させる表面積を容易に拡大させられるでしょう」と話しました。
なお、前述の迷路の回答例はこんな感じです。
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