サイエンス

人の細胞から培養した「生きた皮膚」を持つロボットを東大の研究グループが開発

by ©2024 Takeuchi et al. CC-BY-ND

東京大学とハーバード大学の研究グループが、人由来の培養皮膚から作られた「生きた皮膚を持つ顔型のロボット」を開発しました。人間の皮膚がその下の肉とずれたり滑ったりしないのと同様に、ロボットの表面に生体組織をしっかりと固着させる技術は、自然な柔軟性や自己修復力を持つソフトロボットや化粧品・美容整形業界での応用が期待されています。

Perforation-type anchors inspired by skin ligament for robotic face covered with living skin: Cell Reports Physical Science
https://www.cell.com/cell-reports-physical-science/fulltext/S2666-3864(24)00335-7

生きた皮膚を持つロボットの顔 | 東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0114_00046.html

Robots face the future | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1049030?

東京大学の研究グループが開発した、生きた皮膚を持つロボットの顔は以下の動画から見ることができます。

生きた皮膚を持つ顔型のロボットがにっこり笑うムービー - YouTube


仏頂面のロボット。


口角が上がって笑顔になると、ほほにえくぼができました。


社会の中に溶け込んで仕事をすることが期待される人型ロボットは、これまでシリコンで覆うことで人間らしい外見を整えられてきましたが、このような素材には人間の皮膚が持つような発汗による排熱や自己修復、センシング機能がありません。

こうした課題の鍵となるのが、生体組織を持つロボットです。東京大学のグループは、以前にも自己修復が可能な生きた皮膚を持つ指型ロボットを開発したことがあります。

「生きた肌」を持つ指型ロボットを日本の研究チームが開発 - GIGAZINE


指型ロボットの研究を行っていた東京大学の竹内昌治教授は、その中で「ロボットと皮膚の皮下構造の間の接着性を高める必要がある」と感じたとのこと。しかし、生体組織を人工物に固定するのに使う従来のアンカーには、皮膚の外に突き出たアンカーが見た目や動作に支障を来すという難点があります。

そこで、研究グループは人間の皮膚を皮下組織に固定させる「皮膚支帯」というコラーゲンの繊維から着想を得て、ロボットの表面にV字型の穴を開け、そこに注入したコラーゲンゲルで皮膚をロボットに貼り付ける「穴型アンカー構造」を開発しました。


粘性のあるコラーゲンゲルを微細な穴に注入するのは至難の業です。しかし、研究グループはプラスチックの接着などに用いるプラズマ処理という技術で素材に親水性を持たせることで、コラーゲンを微細構造に取り込ませることができました。

以下は、プラズマ処理の効果を検証している様子です。処理を行っていない左のV字構造にはコラーゲン溶液がほとんど浸透していませんが、プラズマ処理を行った右のV字構造には気泡が入ったりすることなく溶液を注入することができています。


研究グループは、実際に生きた培養皮膚に覆われた顔型の構造体を作ることに成功しました。


またデモンストレーションとして、モーターの動きが穴型アンカーを通じて皮膚に伝わることでにっこり笑う顔型ロボットも開発しました。


この技術は皮膚の老化に関する研究や、化粧品、外科手術、整形手術に関する研究に役立つ可能性があります。また、皮膚にセンサーを埋め込むことができれば、より優れたセンシング技術や対話能力を持つロボットも実現するかもしれません。

竹内教授は「本研究では、人間と同じ表面素材と構造の顔を作ることができましたが、より人間らしい外観にするにはしわや厚みが必要といった課題があることもわかりました。また、ロボット内に洗練されたアクチュエーター、つまり筋肉を組み込むことで人間のような表情を作り出すのも重要です。自己治癒能力を持ち、環境をより正確に感知し、人間のような器用さでタスクを実行できるロボットを作るのは挑戦しがいがあります」と話しました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1l_ks

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