宇宙の幾何学は非常に複雑でこれまでの手法では宇宙の形を確定できないことが判明
宇宙の構造については「膨張を続ける開いた宇宙」「収縮し続ける閉じた宇宙」「膨張も収縮もしない平坦(へいたん)な宇宙」といった説が存在し、どの説が正しいのかは明らかになっていません。そんな宇宙の構造について、国際的な研究チーム「COMPACT Collaboration」が「宇宙の構造はこれまで考えられていたより複雑かもしれない」とする研究結果を2024年4月に発表しました。
Phys. Rev. Lett. 132, 171501 (2024) - Promise of Future Searches for Cosmic Topology
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.171501
Physics - The Universe’s Topology May Not Be Simple
https://physics.aps.org/articles/v17/74
The universe may have a complex geometry — like a doughnut
https://www.sciencenews.org/article/universe-geometry-doughnut-physics
宇宙はビッグバンで誕生した後、急速に膨張したことが知られています。その後も膨張を続ける宇宙の未来像については、このまま無限に広がり続けるとする「開いた宇宙」説と、一定の質量まで膨張してから収縮するという「閉じた宇宙」説があるほか、宇宙の質量が一定に達しても収縮に転じず大きさが維持されるという「平坦な宇宙」説も存在しています。
一方、宇宙の全体像はというと、ビックバンが起きた瞬間の量子プロセス、つまり原子の粒よりも小さい領域における構造の成り立ちによって決定づけられたと考えられています。言い方を変えると、宇宙の形、つまり宇宙のトポロジーを特定することができれば、初期の宇宙の姿に関する重要な洞察が得られるため、研究者らは宇宙を観測してその手がかりを探しています。
宇宙のトポロジーに関する研究の中で重要視されているのが、宇宙誕生から38万年の時点で発せられた光子「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」です。CMBは「ビッグバンの残り火」とも呼ばれており、CMBを観測することで宇宙の構造を推測できると考えられています。2018年には欧州宇宙機関(ESA)がCMB観測衛星「プランク」の詳細な観測データを公開。これにより、宇宙の構造解明が進むことが期待されていました。
宇宙のトポロジーを示す有力な説のひとつに「宇宙はトーラス構造である」というものがあります。トーラス構造は簡単にいうとドーナツのような形状のことで、一昔前のRPGのように上下左右どちらの方向もループが成立しているのが特徴です。もし宇宙がトーラス構造であるなら、CMBの観測データの中に「まったく同じCMBの特徴を持つ地点」が複数箇所現れるはずですが、プランクのような大規模な観測プロジェクトをもってしても該当するデータは発見されていません。
閉ループが成立する構造は、シンプルなトーラス構造だけでなく「直方体をねじって輪にした構造」など数多く存在します。今回の研究では閉ループが成立する17種の構造を対象に、宇宙が各構造に適合する可能性を検討しました。その結果、宇宙が複雑なループ構造をしている場合、同じ宇宙領域でもループ後には見た目が異なることが明らかになりました。つまり、「まったく同じCMBの特徴を持つ地点」を探す従来の手法では、ループ構造を見逃す可能性があるというわけです。
研究チームは、宇宙のトポロジー解明に向けて、今後もループ構造の分析を進めるとのことです。
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