YouTubeとTikTokを漫画出版社が厳しく非難、Content IDによる著作権管理が出版物に対しては無意味であるため
日本の文部科学省管轄の文化庁が2024年3月13日に開催した文化審議会著作権分科会政策小委員会で、YouTube運営元のGoogleとTikTok運営元のByteDanceの代表者に対して、出版社所属の委員が厳しい意見をぶつけていたと、著作権や海賊版に詳しい海外ニュースサイト・TorrentFreakが取り上げています。
文化審議会著作権分科会政策小委員会(第6回) | 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/seisaku/r05_06/
Manga Publishers Grill YouTube & TikTok on Piracy and Content ID Restrictions * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/manga-publishers-grill-youtube-tiktok-on-piracy-and-content-id-restrictions-240416/
著作分科会政策小委員会の議事録は文化庁のサイトで公開されています。この場にはGoogleの代表者としてYouTubeの音楽パートナシップを担当する鬼頭氏が、ByteDance代表としてGlobal Music Business Developmentのライセンス関係担当の嘉藤氏が参加していました。
Googleの鬼頭氏は、著作権透明性レポートなどを通じたYouTubeの透明性への取り組みについて語りました。YouTubeでは、著作権で保護された楽曲や映像を「Content ID」で識別・管理しています。動画がYouTubeにアップロードされることでContent IDが登録され、同一の楽曲あるいは映像が新しくアップロードされると自動で動画視聴がブロックされたり収益の分配が設定されたりされる仕組みです。
しかし、このContent IDはあくまでも動画や音声が対象となっているため、出版物をスキャンして動画に編集してアップロードするという方法には対処できないという問題があります。
一般社団法人ABJ所属で、集英社で海賊版対策に携わっているという伊東敦委員からは、Googleに以下のような意見がぶつけられました。
YouTube上には出版物、主に漫画の静止画をパラパラと紙芝居のように動画にしてアップしているケースであったり、あるいは絵本など、読み聞かせで、ユーザーが自分でページをめくりながら読んでというような動画が大量にアップされています。Content IDに関して言うと、出版物の違法動画に関しては、Content IDが一切効かないということで、出版社の人間は専門の業者を雇ったり、あるいは自らYouTube上で検索して、侵害動画を発見しては消すという作業をやっています。音楽業界の皆さん、JASRACさんなどの発表でも、Content IDで還元されるからいいというような御趣旨の発言もあって、確かにContent IDに関して、海賊版を捕捉して18億ドルぐらいがContent IDで還元されているという発表もあり、確かにすごい金額だなと思いました。音楽業界全体で18億ドル、一方、出版社にはContent IDに関して、海賊版を捕捉しての還元が一切ないではないかと強く感じました。
これに対してGoogleの鬼頭氏は「私自身の役割が日本における、どうしても音楽のパートナーシップに限られてしまっておりますことから、お答えできる立場にございませんこと、どうぞ御理解いただければと存じます」と回答しています。
そして、ByteDanceの嘉藤氏は「TikTokにおいては、原盤においてはやはり、まだYouTubeさんのような、Content IDのような仕組みが導入できてはいないんですけれども、ここで私どもが考えないといけないのは、Content IDのような仕組みがよいのか、それとも今、我々が行っているような、レーベルさんと行っているような、事前に金額を決める、いわゆる包括型の契約、こういったものと、どれが本当に日本にフィットするのか、TikTokというサービスにフィットするのかなど、こういったところも考えていかないといけないポイントであろうと思います」と語り、Content IDのような仕組みを導入することに対して前向きな姿勢を示しました。
そこで、伊東委員はByteDanceに対して以下の意見を述べています。
私の質問の前に全体的なTikTokの状況に関して考えを述べさせていただきます。さきほどから公平性という話が度々出てましたが、音楽業界さんとの取組では、TikTokときちんと権利処理をして、ちゃんと補足して、音楽業界さんにはきちんと対価が還元されているのに、出版物に関して言うと、もちろんTikTok売れなどである程度還元はされますが、TikTok上には非常に出版物の海賊版が多数アップされております。長年、私は、YouTubeさんも含めて対策をしてきて、これまで動画投稿サイトに関して言うと、YouTubeさんが圧倒的に海賊版が多くて、一番多い月は月に2万件ぐらい削除しておりました。しかし、今年の夏ぐらいから、遂にTikTokさんがYouTubeを逆転して、今、月によっては2倍から3倍、TikTokさんのほうに海賊版が多くアップされているという状況になっております。非常に我々も困っておりまして、担当者と侵害対策会社の人間が日々削除をしておりますが、なかなか減らない状況です。
そして、伊東委員は「漫画も含めた出版物の海賊版が非常に多い状況を把握しているか」「レコメンドに海賊版が表示されやすいという状況を知っているか」「YouTubeと比較すると、悪質なアカウントに関してアカウント停止がされにくいというのが現場の実感だが、そういう状況を把握しているか」「ユーザーが著作権意識に残念ながら乏しいという状況を把握しているか」という4つの質問をぶつけました。
ByteDanceの嘉藤氏は「非常にポジティブなお話に感じられますので、一度社内へ持ち帰らせていただいて、検討させていただきたいと思います」と回答しましたが、自身の業務範疇(はんちゅう)から外れていることから、具体的な回答は避けています。
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