サイエンス

スマホやノートPCのバッテリー寿命を「パルス充電」で2倍にすることが可能に


スマートフォンやノートPCを長く大事に使う人の中には、使用しているうちにバッテリーがへたってきて、満充電してもすぐに電池切れが起きる問題に悩まされる人が少なくないはず。一定の電流を流す「定電流」ではなく「パルス電流」を使って充電することにより、多くのデバイスで使われているリチウムイオン電池の寿命を倍増させることが可能との研究結果が発表されました。

Unravelling the Mechanism of Pulse Current Charging for Enhancing the Stability of Commercial LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2/Graphite Lithium‐Ion Batteries - Guo - Advanced Energy Materials - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aenm.202400190

Tired of your laptop battery degrading? New 'pulse current' charging process could double its lifespan. | Live Science
https://www.livescience.com/technology/electronics/tired-of-your-laptop-battery-degrading-new-pulse-current-charging-process-could-double-its-lifespan

BESSY II - How pulsed charging enhances the service time of batteries - Batteries News
https://batteriesnews.com/bessy-ii-how-pulsed-charging-enhances-the-service-time-of-batteries/

スマートフォンから電気自動車まで多くの製品に搭載されているリチウムイオン電池は、1回の充放電を1サイクルとする充電サイクルを数百回繰り返すうちに劣化し、最大容量が少しずつ減っていきます。

ドイツ・フンボルト大学ベルリンおよびデンマーク・オールボー大学の研究チームによると、現行の最先端リチウムイオン電池は電極にリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC532)とグラファイトを採用したもので、耐用年数は5~8年程度だとのこと。これは、充電サイクルにすると300~500回程度とされています。


より高度な充電プロトコルであるパルス電流を使うと、このリチウムイオン電池の寿命が延びる可能性がこれまでの研究で示唆されてきましたが、そのメカニズムはよくわかっていなかったため、実用化の妨げとなっていました。

充電方式の違いがバッテリーの劣化に及ぼす影響を調べるため、研究チームは市販のリチウムイオン電池を定電流とパルス電流で充電し、100サイクルごとにバッテリーの健康状態を診断する実験を行いました。その結果、パルス電流で充電したバッテリーは寿命が倍になることが確かめられました。

以下は、実験の結果をまとめたグラフです。定電流(CC)で充電したバッテリーは、500サイクルの時点で充電容量が80%を切って事実上の寿命に達し、1000サイクル後にはたった37.8%しか残っていませんでした。一方、周波数が100Hzのパルス電流(Pulse-100)で充電したバッテリーは80%になるまで700サイクル持ちこたえ、1000サイクル後も66.48%の容量を維持していました。そして、周波数2000HzのPulse-2000では、1000サイクルを超えても80%以上の性能を維持したままでした。


研究チームが充放電を繰り返したリチウムイオン電池を分析したところ、定電流で充電されたバッテリーでは、電流が流れ込む電極であるアノードの表面に形成される固体電解質界面(SEI)という膜が大幅に分厚くなっており、これによりバッテリーが保持できる充電量が制限されていました。

また、NMC532とグラファイトでできた電極にも無数の亀裂が走っており、これも容量減少の要因となっていました。対照的に、パルス電流で充電したバッテリーはSEIが薄く、電極へのダメージも低く抑えられていました。

以下は、電極(Graphite)の表面を顕微鏡で拡大した写真で、左から順番に新品(Fresh)、定電流(CC)、2000Hzパルス電流(Pulse-2000)のものです。定電流で充電した電極(中央)には約110nmの膜がついていましたが、パルス電流(右)ではこれが半分の約50nmに抑えられていました。


研究チームは、2024年3月14日付けの学術誌・Advanced Materials Sciencesに掲載した論文に「これらの発見は、現行のリチウムイオン電池の充電方式を最適化させて耐用年数を延ばし、さらに将来のバッテリー技術を発展させる洞察ももたらします」と記しました。

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in モバイル,   ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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