サイエンス

生後すぐの腸内細菌の乱れが将来的な神経発達障害のリスクに関連している可能性


生後数年間の腸内細菌叢(そう)の乱れが自閉症やADHDなどの神経発達障害(ND)の診断と関連していると、リンショーピング大学とフロリダ大学の研究チームが1万6000人以上の子どものデータを分析した結果から報告しています。

Infant microbes and metabolites point to childhood neurodevelopmental disorders: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00238-1


Autism and ADHD are linked to disturbed gut flora very early in life
https://medicalxpress.com/news/2024-04-autism-adhd-linked-disturbed-gut.html

研究チームは、1997年から1999年に生まれたスウェーデン在住の1万6440人を出生時から20代まで追跡調査し、そのうち7.3%に当たる1197人がNDと診断されたと報告しています。


子どもの成長過程で複数回実施された調査で、多数のライフスタイルや環境要因を特定し、一部の子どもについては臍帯血(さいたいけつ)の成分と1歳児の便中の細菌が分析されました。

研究チームを主導したリンショーピン大学のジョニー・ルドビクソン教授は、「自閉症やADHDを発症する子どもと発症しない子どもの間で、生後1年目の腸内細菌叢に明確な違いがあることが本研究でわかりました。子どもの1歳までの抗生物質治療など、腸内細菌に影響を与えるいくつかの要因と、これらの疾患のリスク増加との関連性を発見しました」と報告しています。

研究チームは、生後1年目に中耳炎を繰り返した子どもは、その後に発達障害と診断されるリスクが高くなることがわかったことから、抗生物質治療が関連している可能性があると主張しています。研究チームによると、抗生物質治療によって腸内細菌叢の組成が乱れ、Citrobacter属やCoprococcus属といった常在菌が失われたことがNDの発症に寄与している可能性があるとのこと。腸内細菌叢が抗生物質治療によって影響を受け、1型糖尿病や小児リウマチなどの免疫系に関連する疾患のリスクを高める可能性は、これまでの研究でも指摘されていたそうです。

by Public Health Image Library

フロリダ大学の研究員で論文の筆頭著者であるアンジェリカ・アーレンズ氏は「Coprococcus属やAkkermansia muciniphilaは、ビタミンBや脳内でシグナル伝達を統制する上で重要な役割を果たす神経伝達物質の前駆体など、便中の重要な物質と相関していることが知られています。後に発達障害の診断を受けた子どもたちでは、これらの細菌の欠乏が見られました」と報告しています。

また、研究者らは子どもの臍帯血中に含まれる脂肪酸やアミノ酸などの体内代謝物質の量を分析しました。その結果、後にNDと診断された子どもたちは、臍帯血中にいくつかの脂肪酸の量が少なかったことが判明。そのうちの1つであるリノレン酸は抗炎症作用を持ち、脳内で他のさまざまな効果を持つオメガ3脂肪酸の生成に必要であることが知られています。

さらに、NDと診断された子どもたちのグループは、対照群よりも有機フッ素化合物(PFAS)の血中量が多かったとのこと。PFASは極めて分解されにくいことから「永遠の化学物質」とも呼ばれる物質で、健康にさまざまな悪影響を及ぼすことが示されています。ただし、このPFASがND発症のリスクと関連があるのかは不明です。


研究チームは、今回のスウェーデンの子どもたちに見られた関連性が他の集団にも一般化できるかどうかは確実ではないとし、腸内細菌叢の不均衡がND発症を引き起こしているのかどうかを確かめるためにはさらなる研究が必要だとしています。しかし、腸内細菌叢に影響を与える可能性のあるリスク要因を考慮に入れても、多くの細菌について将来のND診断との関連性が見られたと研究チームは主張し、腸内細菌が子どもの将来的なNDリスクを早期に発見できるバイオマーカーになる可能性を示唆しました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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