サイエンス

熟した果物の匂いががん細胞の増殖を抑える可能性


匂いというのは、鼻にある嗅細胞が特定の化学物質と反応することで脳に信号が送られて得られる感覚です。熟した果物や発酵食品が発するような香りの元となる化学物質に、がん細胞の増殖を抑える効果があるという研究結果が報告されています。

Plasticity of gene expression in the nervous system by exposure to environmental odorants that inhibit HDACs | eLife
https://elifesciences.org/articles/86823


The Smell of Ripe Fruit Could Halt The Growth of Cancer Cells : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-smell-of-ripe-fruit-could-halt-the-growth-of-cancer-cells

研究チームは「ジアセチル」という物質がヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤として作用することを発見しました。ジアセチルは、果物の発酵中に酵母から放出される揮発性化合物で、ポップコーンなどにバターの香りをつけたり、電子たばこへの香り付けとして使われたりします。

ヒストンは、長大なDNAを染色体という形に折り畳むために、DNAを巻きつけるためのタンパク質です。このヒストンに作用する酵素であるヒストンデアセチラーゼが阻害されると、発現が抑制された遺伝子が発現しやすくなり、これがいくつかのがん細胞に作用することが示されています。


研究チームは、キイロショウジョウバエとマウスを、ジアセチル蒸気に5日間曝露(ばくろ)しました。その結果、キイロショウジョウバエやマウスの細胞、肺、触覚など、さまざまな組織で遺伝子発現に広範な変化が引き起こされたとのこと。

さらに、培養中のヒト神経芽細胞腫細胞をジアセチル蒸気に曝露すると、ヒト神経芽細胞腫細胞の成長が停止したことが確認できたと研究チームは報告しています。また、神経変性疾患であるハンチントン病を起こすように遺伝子変異したキイロショウジョウバエで同様の実験を行ったところ、神経変性の進行を遅らせる効果が認められたとのこと。

カリフォルニア大学リバーサイド校の細胞および分子生物学者であり、この研究の上級著者であるアナンダサンカー・レイ氏は「私たちは、微生物や食物から放出される一部の揮発性化合物が、ニューロンや他の真核細胞のエピジェネティックな状態を変化させる可能性があるという重要な発見をしました。私たちの研究は、揮発性化合物でこのような効果が見られたことを初めて示しています」と述べています。


ただし、研究チームはジアセチル蒸気を直接吸入すると、気道細胞の変異や閉塞性気管支炎を引き起こす恐れがあるとして、治療の最適解ではないかもしれないとしています。レイ氏は「私たちはすでに、遺伝子発現に変化をもたらす他の揮発性物質を特定する作業を進めています」と語り、自身の研究チームの業績に基づいて2つのスタートアップ企業を設立し、いくつかの特許を出願していることを明らかにしています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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