AppleがiOSアプリに課す1インストール当たり約80円の「コアテクノロジー料」が無料アプリやフリーミアムアプリの開発者を破産させる可能性
2024年1月26日、Appleは欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)に対応するため、サードパーティー製のアプリストアを認めると発表しました。これと同時に、Appleはサードパーティー製(外部)アプリストアに対して手数料を課すための「Core Technology Fee(CTF:コアテクノロジー料)」という制度も発表しています。このCTFの登場により、フリーミアムモデルを採用するアプリの開発者が破産してしまう可能性をApple関連メディアのMacRumorsが指摘しています。
Apple's EU Core Technology Fee Could Bankrupt Freemium App Developers - MacRumors
https://www.macrumors.com/2024/01/25/apple-eu-fees-could-bankrupt-app-developers/
CTFは、「サードパーティー製アプリストアで配布されるiOSアプリに対して、最初の100万インストール以降、1インストールごとに0.5ユーロ(約80円)の支払いを義務付ける」というもの。AppleはCTFが課せられることとなるアプリ開発者は「全体の1%未満であり影響は限定的である」と説明しています。
しかし、アプリ開発者のSteve Troughton-Smith氏がApple公式のCTF試算ツールを利用したところ、完全無料で提供されているアプリの年間インストール数が200万回の場合、Appleに対して年間50万ドル(約7400万円)もの手数料を支払わなければならなくなると報告しています。
MacRumorsは「これは無料アプリにとっては持続不可能なモデルであり、フリーミアムアプリがCTFと売上の収支を合わせるには、ユーザー1人当たり少なくとも0.5ユーロ以上の売上が必要となってきます。無課金ユーザーから何千回もインストールされるフリーミアムアプリの場合、最終的に売上をCTFがはるかに上回り、負債を負ってしまう可能性があります。ダウンロード数が100万回を超える場合、無料アプリを提供するのは危険なため、開発者は自社アプリがCTFを支払うのに十分な売上を確保できるか十分に考慮する必要があります」と述べ、100万回以上インストールされるような無料アプリがCTFを支払うのは難しいと指摘。
ただし、アプリ開発者はAppleに対しての従来のビジネスモデルを維持することを選ぶか、サードパーティー製アプリストアでのアプリ配信を行う代わりにCTFを支払うことを選ぶかを選択することができます。
従来のビジネスモデルを維持する場合、無料アプリやフリーミアムアプリの開発者は、アプリの売上の15~30%を手数料としてAppleに支払う必要があります。この手数料は「アプリの売上の15~30%」であるため、どれだけインストール数が多くても無料アプリなら手数料を支払う必要はありません。
一方、サードパーティー製アプリストアでのアプリ配信を行う代わりにCTFを支払うことを選択した場合、アプリがApp Storeとサードパーティー製アプリストアのどちらで配信されていてもアプリに対して0.5ユーロのCTFが適用されることとなります。これに加えて、App Storeで配信されているアプリの売上の10~17%も手数料として徴収されますが、サードパーティー製アプリストアでの売上は手数料として徴収されることはありません。
なお、新しいApp Storeの契約における利用可能なオプションは以下の通り。
・現行のApp Store契約を続行
開発者はAppleにアプリの売上の15~30%を手数料として支払います。売上が100万ドル(約1億4800万円)未満の場合、App Storeの小規模ビジネスプログラムを通じて売上の15%が手数料として徴収され、100万ドルを超える場合は売上の30%が手数料として徴収されます。サブスクリプションにはリリース初年度は30%の手数料が徴収され、2年目以降は15%の手数料が徴収されます。
・新しいApp Store契約を選択
アプリの売上に対して課せられる手数料は30%から17%に、15%から10%に下げられます。Appleの支払いシステムを使用する場合は3%の追加手数料がかかるため、新しい契約を選択してアプリ内課金を使用する開発者の場合、アプリの売上に課せられる手数料は13~20%になります。サードパーティー製の支払いシステムを使用する場合、追加の3%の手数料は適用されません。また、開発者はアプリのインストール数が100万回に達した場合、毎年1インストール当たり0.5ユーロの手数料を支払う必要があります。
・新しいApp Store契約のもとサードパーティー製アプリストアでアプリを配布
アプリの売上に対する手数料は存在しません。代わりに、アプリのインストール数が100万回を超えると、毎年1インストール当たり0.5ユーロの手数料を支払う必要があります。
Appleは一部の非営利団体、認定教育機関、政府機関の手数料支払いを免除しています。
AppleのCTFは数百万人のユーザーを抱えるSpotifyのようなアプリの場合、法外な金額になる可能性があります。新しいApp Store契約を採用しており、アプリの年間売上が1000万ドル、年間インストール数が1000万回の場合、Appleに対して年間620万ドルの手数料を支払わなければならなくなります。そのため、アプリ開発者のNikita Bierさんは「ヨーロッパではアプリを決してリリースしません」とポストしています。
Under the App Store's new fee structure for Europe, if you make $10 million in sales, Apple's cut is $6.2 million annually.
— Nikita Bier (@nikitabier) January 25, 2024
Assuming you have no operating costs or salaries, your take home amount:
$2 million after tax—or 20% of your sales
I will never launch an app in Europe. pic.twitter.com/MUCxVHcHOo
App Storeに関する変更はiOS 17.4に含まれており、新しい契約を選択する開発者は2024年3月から新しい手数料の支払いを開始する必要があります。
CTFを含むAppleがDMAに対応するために発表したApp Storeへの変更は以下の記事にまとめられています。
Appleがデジタル市場法を受けてEUでのサイドローディングとApp Store外決済を認めるも厳しい条件や新しい手数料が追加される - GIGAZINE
なお、Appleの今回の変更はDMAの回避防止条項に抵触する可能性があるため、EUの規制当局がAppleに対して訴訟を提起する可能性もあると指摘されています。
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