ハードウェア

IBMが1121量子ビットプロセッサ「Condor」とエラー率を大きく改善した量子ビットプロセッサ「Heron」を発表


IBMが量子プロセッサ「IBM Quantum Condor」と「IBM Quantum Heron」を発表しました。CondorはIBMの量子プロセッサで最多となる1121量子ビットを搭載し、HeronはIBMで最もエラー率が低い量子プロセッサとなっています。また、このHeronを搭載した次世代量子コンピューティングシステム「IBM Quantum System Two」も発表されました。

IBM Quantum System Two: the era of quantum utility is here | IBM Research Blog
https://research.ibm.com/blog/quantum-roadmap-2033

IBM Debuts Next-Generation Quantum Processor & IBM Quantum System Two, Extends Roadmap to Advance Era of Quantum Utility - Dec 4, 2023
https://newsroom.ibm.com/2023-12-04-IBM-Debuts-Next-Generation-Quantum-Processor-IBM-Quantum-System-Two,-Extends-Roadmap-to-Advance-Era-of-Quantum-Utility

IBM’s 'Condor' quantum computer has more than 1000 qubits | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2405789-ibms-condor-quantum-computer-has-more-than-1000-qubits/

Unveiling IBM Quantum System Two - YouTube


量子コンピューターは、0と1の2進数で計算する従来のコンピューター(古典コンピューター)と異なり、量子力学の現象である量子重ね合わせ量子もつれを利用して古典コンピューターでは不可能な規模の並列計算を可能にするコンピューターです。古典コンピューターでは時間的に解決が不可能な問題でも高速に解決できる可能性を秘めていることから、世界中の科学者や技術者が量子コンピューターに大きな期待を寄せています。


搭載されている量子ビットの数は増えれば増えるほど量子コンピューターの計算性能の向上が期待できます。記事作成時点でIBM以外に1000量子ビット以上を搭載したプロセッサを開発しているのはAtom Computingというアメリカの企業で、2023年10月に1180量子ビットを搭載したプロセッサを発表しています。

IBMとAtom Computingの量子ビット構築方法は異なります。IBMは電子回路チップを極低温に冷却して超伝導状態の電子を利用する「超伝導方式」を、Atom Computingは中性の原子を光ピンセットで真空中に固定して利用する「冷却原子方式」を採用しています。

IBMが採用している超伝導方式は量子ビットを集積化しやすい反面、ノイズに弱く不安定になってしまい、エラーが増えてしまうという問題を抱えています。そのため、IBMはこのエラー率の改善を図りながら、量子ビット数を増やすことで、量子コンピューターの性能向上に努めてきました。


IBMはCondorを開発するために、量子コンピューターの入力メカニズムとその出力の読み取り方法の改善に重点を置いたと述べており、量子ビット密度を50%増加させることで歩留まり率を向上したと報告しています。

IBMは2020年に量子プロセッサの開発ロードマップを公開しており、「2023年に1121量子ビットを搭載したプロセッサ『Condor』を発表する」と述べていました。つまり、今回の発表はIBMがロードマップ通りに開発を進め、予定通りにマイルストーンを達成したことを示しています。

「量子コンピューターのロードマップ」をIBMが公開、2023年にはついに1000量子ビットの大台に乗る計画 - GIGAZINE


また、同時に発表されたHeronは133量子ビットを搭載し、Condorよりもかなり小型のチップとなります。しかしIBMによれば、2021年に発表された世界初の127量子ビットプロセッサ「Eagle」と比べて、Heronのエラー率が5分の1にまで下がっているとのこと。これにより、より長く複雑なプログラムを実行できるようになり、さまざまな問題に最適な量子コンピューティングプログラムを見つけるような実験が可能になるとIBMは主張しています。


IBMは、このHeronプロセッサ3基を組み込んだ「IBM Quantum System Two」も発表しました。このIBM Quantum System Twoの開発にはIBMのほか、アメリカエネルギー省下にあるアルゴンヌ国立研究所、東京大学、ワシントン大学、ケルン大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校などの研究者や技術者が参加しています。IBMによれば、IBM Quantum System Twoは1つのモジュールにつき1度に5000回分の演算が可能だとのこと。


さらにIBM Quantum System Twoは「世界初のモジュール式で実用規模の量子コンピューティングシステム」という点が大きな特徴で、複数のモジュールを接続することで単一の量子回路を構築し、1度に最大1億回の演算を実行することが可能になるとのこと。IBMは、将来的に単一の量子回路で1度に10億回の演算を実行できるシステムを実現すると宣言しています。


そして、量子コンピューター用のオープンソースのフレームワーク「Qiskit」と、IBMのAIプラットフォーム「watsonx」で利用可能な生成AIを組み合わせることで、量子ソフトウェアのプログラミングも容易になるとIBM Quantum Condorは述べています。

IBMの研究者でヴァイスプレジデントであるジェイ・ガンベッタ氏は「生成AIと量子コンピューティングはどちらも変曲点を迎えており、watsonxの信頼できる基礎モデルフレームワークを使い、実用規模で量子アルゴリズムを構築する方法を簡素化することができます。これは量子コンピューティングで科学を探究する手段としてユーザーが利用できる方法を拡張するための重要な一歩です」とコメントしました。

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in ハードウェア,   動画, Posted by log1i_yk

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