数兆件に及ぶ電話記録を法執行機関が捜査できる機密プログラム「ヘミスフィア・プロジェクト」は捜査令状なしの違憲捜査だと上院議員が訴え
アメリカ合衆国憲法修正第4条には、「令状は宣誓もしくは確約に裏付けられ、かつ、捜索場所および押収される人または物を特に記述した正当な理由によらなければ、発行されない」と定められており、令状のない捜査を禁止しています。しかし、アメリカの国家麻薬管理政策局(ONDCP)は通信企業のAT&Tに資金を提供して電話記録を捜査できる「ヘミスフィア・プロジェクト」という密約を交わしており、この捜査が修正第4条に違反していると上院議員が訴えました。
US government pays AT&T to let cops search phone records • The Register
https://www.theregister.com/2023/11/22/wyden_hemisphere_letter/
ヘミスフィア・プロジェクトはONDCPとAT&Tの間の官民パートナーシップです。このヘミスフィアプロジェクトではアトランタ・ヒューストン・ロサンゼルスの3都市にAT&Tの地方事務所を設置し、AT&T以外の携帯電話から発信された通話を含む、AT&Tの交換機を介してルーティングされたすべての通話に関するメタデータを収集します。
収集されたデータは1987年まで遡ることができ、発信者や受信者の電話番号、日付、時刻、発信者の位置が含まれます。なお、この地方事務所で業務に携わるAT&T従業員の給料は、AT&TではなくONDCPから支払われるとのこと。
ヘミスフィア・プロジェクトは2013年にThe New York Timesによって報じられ、一般に知られるようになりました。ただし、プログラムの詳細については公開されておらず、電子フロンティア財団などのプライバシー擁護を訴える団体が公開を求めて訴訟を起こしています。
Drug Agents Use Vast Phone Trove, Eclipsing N.S.A.’s - The New York Times
https://www.nytimes.com/2013/09/02/us/drug-agents-use-vast-phone-trove-eclipsing-nsas.html
通常、こうしたデータは裁判所から発行された捜査令状をもって初めて捜査官に公開されます。しかし、民主党のロン・ワイデン上院議員によれば、ヘミスフィア・プロジェクトでは捜査令状の請求は必要ないとのこと。ただし、ヘミスフィア・プロジェクトは機密であることから、事件報告書や裁判所への提出書類に記すことはできず、捜査官はこのプロジェクトに基づいて取得した情報源を開示することは許可されていません。
ワイデン上院議員はメリック・ガーランド司法長官に宛てた(PDFファイル)書簡に、「私はヘミスフィア・プロジェクトの合法性に重大な懸念を抱いています。司法省から提供された資料には多くのアメリカ人や他の議員を当然憤慨させるような厄介な情報が含まれています」と記し、ヘミスフィア・プロジェクトの機密解除を求めています。
AT&TはIT系ニュースサイトのThe Registerに対し、ヘミスフィア・プロジェクトについて具体的な回答を控えましたが、「明確にしておきたいのですが、ワイデン上院議員の書簡で言及されたような情報は、捜査令状や裁判所命令によって強制されたものでしょう」と述べ、令状なしで捜査しているというワイデン上院議員の主張を否定しています。
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