交通違反を取り締まりまくって歳入の約90%を罰金などでまかなう人口わずか226人の村で開かれる特殊な裁判とは?
交通違反の罰金は自治体の収入となりますが、一般的にその金額は自治体全体の収入からすれば微々たるものです。しかし、アメリカ・ルイジアナ州にある人口226人のフェントンという村では、「Mayor's court(首長裁判所)」という特殊な形式の裁判所が運営されており、この裁判所が交通違反者から徴収する罰金が村の主な収入源になっていると報じられています。
This Louisiana Village Brought in $1 Million Through a Court Where the Mayor Is the Judge — ProPublica
https://www.propublica.org/article/fenton-louisiana-brought-in-1-million-through-mayors-court
石油化学産業の重要拠点であるレイクチャールズの郊外にあるフェントンは、人口約226人の非常に小さな自治体です。村には約20ブロックほどの区画しかなく、目立つ建物は市役所や図書館、ガソリンスタンド、小さな公営団地、チェーンの雑貨店、穀物貯蔵施設、教会くらいです。
フェントンの北側にはルイジアナ州中部からテキサス州東部へ向かう道が通っており、通り抜けるまでわずか1分程度ですが多くの車がフェントンの中を通ります。道路は村の入り口直前で国道165号線の高速道路から一般道に切り替わり、制限速度が時速65マイル(約105km)から50マイル(約80km)に引き下げられます。フェントンの警察官はこの道路に待機して、速度の変更を見落としたり、十分に速度を落とさなかったりしたドライバーに対し、大量の交通違反切符を切っているとのこと。
その結果、フェントンは2022年6月までの約1年間で、130万ドル(約1億9400万円)を主に交通違反による罰金や没収金で得ています。この金額はルイジアナ州にあるほとんどの自治体よりも多く、ルイジアナ州第3の都市である人口約18万7000人のシュリーブポートとほぼ同額だそうです。
アメリカの平均的な自治体では、歳入に占める罰金および没収の割合が1.7%であるのに対し、フェントンでは92.5%に達します。つまり、人口が少なく消費税や固定資産税がほとんど徴収できないフェントンでは、村の運営に必要なほぼすべての資金が交通違反の罰金によってまかなわれているというわけです。
また、フェントンにはルイジアナ州やオハイオ州などの小さな自治体でみられる「首長裁判所」という特殊な裁判所が設けられています。首長裁判所とは、交通違反をはじめとする軽微な犯罪を「自治体の首長が裁判長を務める裁判所」が処理するという仕組みであり、記事作成時点では約250の小規模な自治体で機能しています。
首長裁判所は地方裁判所と同様に地方条例の違反について扱いますが、ルイジアナ州では法律のグレーゾーンで運営されています。地方裁判所の裁判官は、法学の学位を得た上で司法試験に合格する必要がある一方、首長裁判所では首長がこれらの要件を満たさなくても裁判長を務めることが可能です。首長は裁判長として違反者に罰金を科したり、懲役刑を宣告したりすることができるとのこと。
当然、首長裁判所は被告人が公正な裁判を受けられるようにしなくてはなりませんが、他の裁判所とは異なり、首長裁判所が公正かつ適切に運営されることを保証する刑事訴訟法などの規制対象にはなっていません。公民権に強い法律事務所のマッカーサー・ジャスティス・センターに所属するエリック・フォーリー弁護士は、「首長裁判所は法律の影で動いているのです」と述べています。
フェントンを通る道路は確かに速度違反が起きやすい環境が整っているものの、小さな村が大都市に匹敵するほどの罰金を毎年徴収しており、それが村にとって重要な収入源になっている以上、恣意(しい)的な取り締まりが行われていると疑う声も上がっています。また、違反者に罰金を科すかどうかを判断する裁判が、フェントンの村長が裁判長を務める首長裁判所で行われることから、そこに利益相反があるという指摘もあります。
1972年には、フェントン同様に交通違反の罰金が歳入の多くを占めていたオハイオ州モンロービルの首長裁判所に対し、交通違反切符を切られた人物が「モンロービルでは裁判長である首長が法の執行と自治体運営の両方に責任を持っているため、公正な裁判が拒否された」として訴訟を起こしました。
この裁判はアメリカ合衆国最高裁判所に持ち込まれ、モンロービルの首長裁判所は公正な裁判を行っていないという判決が下りました。ウィリアム・ブレナン・ジュニア判事は、問題は「首長が公平な裁判官と見なされるかどうか」にあるとして、首長が裁判を主宰すると同時に自治体の財政も管理しており、裁判所が歳入の大部分を占めているのであれば、公正な裁判を行うことができないと結論付けました。
その後、ルイジアナ州でも「歳入の10%以上が首長裁判所からもたらされるものである場合」は、首長は裁判においてバイアスを持っている可能性があると裁定が下りました。ルイジアナ司法大学は首長裁判所に関するトレーニングビデオでこの利益相反問題を取り扱っており、自治体の歳入の10%以上を首長裁判所が占める場合、裁判長に弁護士を任命するべきだと勧告しています。しかし、フェントンでは依然として、2009年から村長を務めているエディ・アルフレッド・ジュニア氏が裁判長を務めているそうです。
ルイジアナ州テュレーン大学の名誉法学教授であるジョエル・フリードマン氏は、「自治体のために資金を集めようとしている市長は、このような軽微な犯罪を起訴し、罰金を市に納めさせる責任者です。彼らには説明責任もなく、やりたい放題になっています」と述べました。
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