オフィスがうるさいと人々は自分のテリトリーを強く主張するようになる
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで変化した生活様式が次第に元通りになり、リモートワークから従来のオフィス勤務に戻ったという人も多いはず。人の多いオフィスは同僚の会話や電話のコール、キーボードのタイプ音などの騒音にあふれていますが、騒音の多いオフィスで働く人はストレスを感じ、「自分のテリトリー」を強く主張するようになるという研究結果が発表されました。
An experience sampling study of employees’ reactions to noise in the open-plan office - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0148296322009109
This desk is mine! How noisy offices can make us more territorial
https://theconversation.com/this-desk-is-mine-how-noisy-offices-can-make-us-more-territorial-210451
デスクの仕切りを極力減らしたオープンオフィスは、社員同士のコミュニケーションを促進するとして多くの企業が採用しているレイアウトです。しかし、オープンオフィスで生じる話し声や足音、プリンターの音、電話の着信音、キーボードのタイプ音といった雑音はストレスを増加させることが報告されています。
新たに、クイーンズランド大学経営学部准教授のオレルミ・アヨコ氏らの研究チームは、大学のさまざまなプライバシーレベルのエリアで働く71人の被験者を対象にした研究を行いました。被験者らは10日間にわたって日記を付け、仕事中に認識した騒音の程度と、午前中および午後に感じたことを記録しました。オフィスの騒音に対する認識を測定するため、被験者らは「電話の騒音に煩わされている」「オフィスの機械音に煩わされている」といった質問に対し、「まったくそう思わない」から「強くそう思う」までの7段階で評価したとのこと。
また、仕事中の気分や行動を測定するため、被験者は以下のような発言についてそれぞれ7段階で評価しました。
・この瞬間に私の周囲で起こっていることにフラストレーションがたまる。
・私の周囲で起きていることに怒りを感じる。
・同僚から離れて引きこもりたくなる。
・職場でひとりぼっちになりたい。
・同僚と意見の相違を経験している。
・ワークスペースの周囲に境界線を設けている。
・自分のワークスペースを好きなように飾っている。
次に、研究チームは統計的手法を用いて各被験者が働くオフィスの騒音やネガティブな感情、さまざまな行動との関連性について分析しました。その結果、オフィスの騒音とフラストレーション、怒り、不安といった感情の間には、中~強度の統計的関連性があることがわかりました。
また、騒がしいオフィスで働く被験者は許可されている時間よりも長く休憩を取ったり、個人的な問題により長い時間を費やしたり、インターネットサーフィンをしたりして、心理的に仕事から引きこもる可能性が高いと報告されています。一方で、オフィスの騒音とさまざまな問題についての意見が同僚と対立する傾向の関連性は弱かったとのことです。
さらに、被験者が怒りやフラストレーション、不安についての評価が1段階高くなるごとに、職場のデスク周りに鉢植えや写真を飾るなどの縄張り意識を示す行動をする可能性が、3倍以上高くなることもわかりました。この影響はオープンオフィスなどのプライバシーレベルが低い職場で最も強く、1人用オフィスなどの小規模かつプライバシーレベルの高い職場ではあまり目立ちませんでした。
アヨコ氏は、「簡単に言うと、騒がしい職場は労働者の機嫌を損なう可能性が高く、時間の経過とともにこれらのネガティブな感情は縄張り意識の高まりと関連していることがわかりました」と述べています。
人々がデスク周りを飾るのは単なるストレスへの反応に限らず、単純にそれが美しいと感じていたり、自分のアイデンティティを反映したりしていることもあります。仕事場でもアイデンティティを反映することは労働者の満足度や幸福度を高め、組織全体のウェルビーイングを高めるという研究結果も報告されています。
そのため、オープンオフィスでありながら身の回り品の持ち込みが厳しく規制されている環境や、1日の終わりにスペースを片付けなくてはならないホットデスクは、従業員が心理的な課題に対処する簡単な方法を否定している可能性があるとのこと。
アヨコ氏は、「私たちは感情的な生き物であり、独自性や自己同一性、コントロール、帰属意識を必要としています。これは仕事に行っても消えません。職場や仕事に対する心理的な当事者意識は、仕事の満足度や組織へのコミットメントの向上と関連しています」「労働者をオフィスに戻そうとする雇用主は、生産性の向上と、オフィスが騒がしいと従業員がより不機嫌になり、イライラし、文字通りの意味でも比喩的な意味でも壁を作りやすくなることのバランスを取る必要があります」と主張しました。
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