サイエンス

「失神」の原因は何なのか?


暑さや空腹を感じたとき、急に立ち上がったときなど、人間はふとした瞬間に気を失ってしまうことがあります。人間の40%が人生に一度は失神を経験するそうですが、実はこの失神のメカニズムはよくわかっていませんでした。新たに、カリフォルニア大学神経生物学部のヴィニート・オーガスティン氏らの研究により未知の神経回路が発見され、失神がなぜ起こるのかを解明する道が切り開かれました。

Vagal sensory neurons mediate the Bezold–Jarisch reflex and induce syncope | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06680-7

What causes fainting? Scientists finally have an answer
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03450-3

What happens when we pass out? Researchers identify new brain and heart connections
https://medicalxpress.com/news/2023-11-brain-heart.html


従来の研究では、失神は「脳の血流低下」によって引き起こされるものだと考えられていましたが、血流低下がどのようにして発生するのかといった点が未解明でした。オーガスティン氏らはこの考えに基づいてアプローチを少し変え、「脳」に加えて「心臓」にも調査の手を広げていました。

オーガスティン氏らは、1867年に初めて公表された「ベゾルド・ジャリッシュ反射(BJR)」という反応に着目しました。BJRは静脈に特定の化学物質を注射すると徐脈や低呼吸が発生するという反応のことで、この反応は迷走神経を介して作用すると考えられていましたが、反応に関与する神経回路についてはよくわかっていませんでした。

そこで、オーガスティン氏らは脳と内臓器官との間で信号を伝達する迷走神経に焦点を当てて解析し、血管内の小さな筋肉を刺激して血管を収縮させる「受容体」を発現する感覚ニューロン群「迷走神経感覚ニューロン(VSN)」を同定しました。


これらのニューロンは肺や腸につながる他の迷走神経とは異なり、心臓下部の筋肉部分である心室内で枝を形成し、脳幹の最後野と呼ばれる領域に接続しています。

オーガスティン氏らがマウスを刺激してVSNを積極的に活性化させたところ、自由に動き回っていたマウスがすぐに失神し、急速な瞳孔散大や眼球回転といった失神の典型的な症状を示していたことがわかったそうです。さらに、マウスからVSNを除去すると、BJRと失神状態が消失することも判明しています。


これまでの研究でわかっていた「失神は脳血流の減少によって引き起こされる」という点は今回の研究においても支持されましたが、加えて「VSNとその神経経路の活性化が重要な役割を果たしている」という可能性が新たに浮上しました。

オーガスティン氏は、「失神には血流の減少が関与しますが、同時に血流を操作する専用の回路も関与するのです」と指摘。今回の研究は心臓を調査する循環器学と神経を調査する神経科学の融合だと解釈し、「心臓専門医が何十年も問うてきた疑問に対して、神経科学の視点を取り入れることで、神経系がどのように心臓を制御しているのかが実際判明しました」と述べました。


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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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