サイエンス

切れた神経を再びつなぎ合わせることが可能な物質の開発に成功


人間の神経細胞は膜の内外に存在するイオンを介した電気信号を伝えることでさまざまな情報をやりとりしています。しかし、この神経細胞が損傷して切れてしまうと、再びつなぎ合わせるのは至難です。ライス大学の研究チームが、新しく発見した材料を使って損傷した神経細胞を再びつなぎ合わせる実験に成功したと報告しています。

Self-rectifying magnetoelectric metamaterials for remote neural stimulation and motor function restoration | Nature Materials
https://www.nature.com/articles/s41563-023-01680-4


Rice-engineered material can reconnect severed nerves | Rice News | News and Media Relations | Rice University
https://news.rice.edu/news/2023/rice-engineered-material-can-reconnect-severed-nerves


ライス大学の神経工学者であるジェイコブ・ロビンソン氏の率いるチームは、従来の120倍の速さで磁気から電気へ変換できる「自己整流型磁気電気メタマテリアル」を開発しました。この自己整流型磁気電気メタマテリアルは、2つの金属ガラス合金の間にチタン酸ジルコン酸鉛という物質を挟んだ構造をしており、磁気を電気に変換することができます。


研究チームの一員で論文の筆頭著者であるジョシュア・チェン氏は「私たちは『塵のような物質、あるいは体内に少し振りかけるだけで脳や神経系を刺激できるような非常に小さな物質を作ることはできないだろうか?』と考えました」と述べています。

しかし、この自己整流型磁気電気メタマテリアルが生成する電気信号は神経細胞が検出するには速すぎる上に、信号のパターンが均一すぎたとのこと。そこで、研究チームはプラチナ、酸化ハフニウム、酸化亜鉛、そして自己整流型磁気電気メタマテリアルを薄く積み重ね、わずか200ナノメートル未満の薄い積層材料を作り、神経細胞の電気活動に適した素材を開発しました。

そして、研究チームは末梢神経を損傷したラットに開発した積層材料を投与し、神経を刺激することで、損傷した神経の機能を回復させることに成功したと報告しています。この報告は、切れてしまった神経を再度つなげ合わせられる神経用装具が実現する可能性を示しています。


チェン氏は「このメタマテリアルを使うことで、損傷した神経の隙間を埋め、電気信号の速度を回復できます。私たちは神経工学における多くの課題を克服するような新しいメタマテリアルを合理的に設計することができました。さらに大事なのは、この高度な材料設計の枠組みがエレクトロニクスにおけるセンシングやメモリーといった他の用途にも応用できるということです」とコメントしています。

ロビンソン氏は「自然界に存在する材料にとらわれることなく、これまで存在しなかった材料を使ってデバイスやシステムを設計できるようになったことは、本当にエキサイティングなことです。新しい材料を発見すると、その潜在的な用途をすべて予想するのは本当に難しいことです。私たちは生物工学に焦点を当てましたが、それ以外の分野でも応用が大いに期待できます」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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