サイエンス

月はこれまで考えられていたより約4000万年古いことがアポロ17号が持ち帰ったジルコン結晶から判明


「月がどのように形成されたのか」については複数の仮説が提唱されていますが、有力なものとしては誕生間もない原始地球に火星ほどのサイズだったテイアと呼ばれる惑星が衝突し、その破片が月になったというジャイアント・インパクト説があります。アポロ計画最後のミッションとなったアポロ17号が持ち帰ったジルコン結晶を分析した新たな研究では、月が形成されたのはこれまで考えられてきたよりも4000万年古い「約44億6000万年前」であることが示されました。

4.46 Ga zircons anchor chronology of lunar magma ocean | Geochemical Perspectives Letters
https://www.geochemicalperspectivesletters.org/article2334/


The Moon Is 40 Million Years Older than Previously Thought | News | Northwestern Engineering
https://www.mccormick.northwestern.edu/news/articles/2023/10/the-moon-is-40-million-years-older-than-previously-thought/

Crystals brought back by astronauts show that | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1005078

Moon is 40 million years older than we thought, tiny crystals from Apollo mission confirm | Live Science
https://www.livescience.com/space/the-moon/moon-is-40-million-years-older-than-we-thought-tiny-crystals-from-apollo-mission-confirm

The Moon Is Millions of Years Older Than We Thought, Scientists Say : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-moon-is-millions-of-years-older-than-we-thought-scientists-say

月は地球ができてからそれほど時間が経たないうちに形成されたとみられており、ジャイアント・インパクト説に基づけばテイアの衝突からわずか数時間で形成された可能性が示唆されています。新たにフィールド自然史博物館ノースウェスタン大学などの研究チームは、アポロ17号が月から持ち帰ったジルコン結晶を分析することで、少なくとも月が何年前に形成されたのかを調査しました。

ジルコン結晶は超高温と強い圧力によって形成される微細な岩石であり、地球上でも隕石(いんせき)が衝突したクレーターの年代測定などに用いられています。ジャイアント・インパクトによって月が形成された後にもジルコン結晶は作られたとみられていますが、形成直後の月は表面がジルコンを溶かすほど高温のマグマで覆われていたため、月面に存在するジルコン結晶はいずれも月の表面が冷え固まった後に作られたとのこと。

また、ジルコン結晶の外層には放射性元素であるウランが含まれており、このウランが放射性崩壊したことによって変化した鉛も存在します。このウランと鉛の比率を測定することで、ジルコン結晶がいつ形成されたのかを知ることが可能です。


そこで、フィールド自然史博物館の宇宙科学者であるフィリップ・ヘック氏らの研究チームは、アポロ17号が持ち帰ったジルコン結晶を分析し、月が少なくとも何年前の時点で存在していたのかを調べる研究を行いました。ヘック氏は、「月の表面が溶けた時、ジルコン結晶は形成されることも存在し続けることもできませんでした。そのため、月面のジルコン結晶は月のマグマが冷えた後に形成されたに違いありません。そうでなければジルコン結晶は溶けて、その化学的特徴は消えていたでしょう」と述べています。

研究チームはノースウェスタン大学にある専用の機器を使い、アトムプローブ・トモグラフィーという手法でジルコン結晶を分析しました。アトムプローブ・トモグラフィーとは、鋭くとがらせたサンプルの一部に紫外線レーザーを照射し、表面から微量の原子を蒸発させ、この蒸発した原子を質量分析計で測定して原子の比率を調べるという手法です。

以下の画像は、実際にアトムプローブ・トモグラフィー分析の際にとがらせたジルコン結晶の一部を撮影したもの。


分析の結果、ウランと鉛の比率からアポロ17号が持ち帰ったジルコン結晶は44億6000万年前に作られたものであることが判明しました。つまり、月が形成されたのは少なくとも44億6000万年前よりも古い年代であることが示されたというわけです。

なお、2021年の研究でも月で採取されたジルコン結晶を分析し、サンプルの年代が最大で44億6000万年前にさかのぼると報告されていましたが、当時の研究チームは年代測定方法に多くの不確実性があると指摘していました。そのため、より広く認められた最古のジルコン結晶は、2009年の研究で分析された44億2000万年前のものだったとのこと。

ヘック氏は月が形成された年代を知ることの重要性について、「月は惑星系における重要なパートナーです。地球の自転軸が安定していること、1日が24時間であること、潮の満ち引きがあることなどは月のおかげです。月がなければ地球上の生物は違った姿になっていたでしょう。月は、私たちがより深く理解したいと願う自然システムの一部であり、今回の研究はその全体像における小さなパズルのピースを提供するものです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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