サイエンス

寄生虫に感染することで新型コロナによる入院や死亡率が低下する可能性がある


人体に寄生する蠕虫(ぜんちゅう)が流行しているアフリカやアジアの一部地域では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院や死亡につながる重症例が少ないことが報告されています。新たに、「寄生虫に感染するとCOVID-19で死亡する割合が低くなるかもしれない」という研究結果を、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の研究チームが発表しました。

Exposure to lung-migrating helminth protects against murine SARS-CoV-2 infection through macrophage-dependent T cell activation | Science Immunology
https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.adf8161


Relation of Parasitic Worm Infection and SARS-CoV-2 Explored | NIH: National Institute of Allergy and Infectious Diseases
https://www.niaid.nih.gov/news-events/parasiticwormsarscov2

Prior hookworm infection could offer protection from severe COVID-19 symptoms
https://medicalxpress.com/news/2023-08-prior-hookworm-infection-severe-covid-.html

研究当時はNIAIDに所属しており、記事作成時点ではニュージーランドのマラガン医学研究所で博士研究員を務めるケリー・ヒリガン氏は、「この研究は、世界の特定の地域ではCOVID-19のパンデミック初期に想定されていたよりも、ひどい結果にならなかったという観察に端を発しています」と述べています。

これまで、アフリカやアジアの一部の国々ではCOVID-19による重症例が他の地域より少ないことが報告されており、その結果は関連要因や報告される症例の割合を考慮しても当てはまったとのこと。この理由についてヒリガン氏は、「興味深いのは、これらの地域は鉤虫感染症が流行している地域と強く相関または重複していることです」と説明しています。実際にエチオピアの研究では、寄生虫に感染した患者の免疫システムが増強され、結果としてCOVID-19のリスクが低下している可能性が示唆されました。

ヒリガン氏は、「一般的に、感染症が免疫系を刺激して活性化すると、それによって他の病原体が入ってくるのを防いだり、排除したりする利点があると考えられています。COVID-19の場合、ウイルス・バクテリア・寄生虫のいずれであってもこの効果が当てはまるようです」と述べています。

そこでヒリガン氏らの研究チームは、人間と近しい免疫系や細胞を持っているマウスを用いて、げっ歯類の肺に感染するNippostrongylus brasiliensis(N. brasiliensis)という寄生虫の感染とCOVID-19リスクの関係について調べる実験を行いました。実験では、まずマウスにN. brasiliensisを感染させ、その後で致死量のSARS-CoV-2に暴露しました。N. brasiliensisはマウスに感染すると、肺に移動してある程度の損傷を引き起こしますが、除去されると速やかに損傷は修復されるとのこと。


実験の結果、過去にN. brasiliensisに感染していたマウスはSARS-CoV-2に感染しても約60%が生存したのに対し、過去にN. brasiliensisに感染しなかったマウスは約20%しか生存できませんでした。また、N. brasiliensisが肺に移動する前に除去されたマウスでは同程度の保護効果がみられず、寄生虫が肺に移動することが重度のCOVID-19を防ぐ効果を持っていることが示唆されました。

研究チームがマウスのウイルス量を測定したところ、SARS-CoV-2に感染してから3日目の時点では、寄生虫に感染したマウスもそうでないマウスも体内のウイルス量は変わりませんでしたが、感染7日後の時点では寄生虫に感染したマウスの方がはるかにウイルス量が少ないことも判明。これは、寄生虫の感染がウイルスの感染自体を抑制する自然免疫系ではなく、感染したウイルスに対応する獲得免疫系を改善することを示しています。

免疫系についてさらなる分析を行った研究チームは、侵入した病原体を検知して免疫系にシグナルを送るマクロファージが、N. brasiliensisに感染したマウスではより活性化されていることを突き止めました。その結果、ウイルスに感染した細胞を排除する「CD8+ T細胞」という免疫細胞の量が、寄生虫に感染したマウスでははるかに多くなっていたというわけです。

ヒリガン氏は、「私たちはウイルス反応に不可欠なCD8+ T細胞の誘導が促進されることを発見しました。この改変されたマクロファージのおかげで、T細胞はより迅速に感染組織に入り、より速やかに感染を除去し、結果的に重度の症状がはるかに少なくなりました。さらにこの効果は長続きするようで、寄生虫が体内から排除された後も、マクロファージはCD8+ T細胞を誘導し、活性化させる非常に強い能力を維持していました」とコメントしました。


今回の研究はあくまでマウスを用いた動物実験に基づいており、まだ人間で確認されたわけではありませんが、研究者らはマクロファージと寄生虫の関連に焦点を当てているとのこと。ヒリガン氏は、「今後はT細胞を肺に呼び込むシグナルについて理解したいと考えています。さらに、このような特殊なマクロファージを作り出すために寄生虫が何をしているのか、また寄生虫を必要とせずこの効果を再現できるのかについても知りたいと思います」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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