多発する謎の腎臓病に除草剤の「ラウンドアップ」が関係している可能性が浮上
by Mike Mozart
過去数十年にわたり謎の腎臓病が多発していたスリランカの農村を調査した結果、世界中で使われている除草剤「ラウンドアップ」の成分が原因である可能性が判明しました。
Glyphosate and Fluoride in High-Hardness Drinking Water Are Positively Associated with Chronic Kidney Disease of Unknown Etiology (CKDu) in Sri Lanka | Environmental Science & Technology Letters
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.estlett.3c00504
Roundup herbicide ingredient connected to epidemic levels of chronic kidney disease
https://phys.org/news/2023-10-roundup-herbicide-ingredient-epidemic-chronic.html
世界中の農村地域で、「Chronic Kidney Disease of Unknown etiology/Uncertain cause(CKDu:原因不明の慢性腎臓病)」と呼ばれる病気が多発しています。CKDuを発症した多くの人が腎機能の急速な低下を経験し、場合によっては死に至ることもあると報告されており、特にスリランカと中央アメリカで発症する事例が多く確認されています。
デューク大学のニシャド・ジャヤスンダラ氏らがスリランカの農村で井戸水を調査した結果、ラウンドアップの成分である「グリホサート」がCKDuを引き起こす原因となっている可能性が浮上しました。
ラウンドアップは、雑草や害虫を駆除するために使用されるグリホサート系除草剤です。環境中では数日から数週間で分解されることになっているため、日本を始めとするほとんどの公衆衛生機関はラウンドアップを特に規制していません。しかし、グリホサートがマグネシウムやカルシウムのような硬水中に多く含まれる特定の微量金属イオンと出会うと、金属イオン複合体が形成されることがあり、これらの錯体は水中で7年、土壌中では22年間も持続する可能性があるそうです。
スリランカの特定の農業地域では、高地で乾燥した気候と地層とが相まって、硬水に最適な条件が作り出されています。CKDuが流行しているのもこうした地域であり、5歳から11歳の子供ですら、全体の10%に腎臓障害の兆候が見られているとのこと。
スリランカ出身のジャヤスンダラ氏は、「この化学物質は環境中ですぐに分解されると考えられていましたが、硬水中で複合化すると、予想以上に長く残留するようです」と述べ、グリホサートが他の元素とどのように相互作用しているのか、そして複合体として体内に取り込まれたときにグリホサートがどうなるのかを考える必要があると指摘します。
スリランカでは除草剤の使用が禁止されていましたが、それでも除草剤がCKDuの発症に関与していると考えたジャヤスンタラ氏は、スリランカの4つの地域で200以上の井戸を調査することにしました。
ジャヤスンタラ氏らが汚染物質を同定できる手法を用いて井戸水を分析したところ、CKDuの影響を受ける地域の44%で、除草剤の濃度が有意に高いことが発見されました。
さらに、CKDuの発症率が高い地域のほとんどすべての飲料水から、腎臓障害に関連する「フッ化物」と「バナジウム」の濃度が高いことも発見されていて、研究者たちは「これらの汚染物質がそれぞれ単独で、あるいは他の汚染物質と一緒に影響を及ぼしているのかどうか、もっと注意を払う必要がある」との見解を示しています。
調査に携わったリー・ファーガソン氏は「今回は飲料水に焦点を当てましたが、他にも重要な暴露経路が存在する可能性があります。農薬を散布する労働者からの直接接触か、あるいは食べ物からかもしれません。これらの暴露経路の関連性を調べることに重点を置いた研究をもっと増やしてほしいと思います。まだ見落としていることがありそうです」と述べました。
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