元祖スマートフォン「BlackBerry」は激しく浮き沈みして消えていった
バラク・オバマ元アメリカ大統領やレディー・ガガが使用し、セレブのキム・カーダシアンは3台も所有していたという携帯端末「BlackBerry」は、いまや時代の波に飲まれてしまい、姿を見かけることはまれになってしまいました。あまりにも激しかった浮き沈みを、ジャーナリストのスチュアート・ヘリテージ氏が述懐しています。
The rise and fall of the BlackBerry | BlackBerry corporation | The Guardian
https://www.theguardian.com/technology/2023/oct/15/blackberry-smartphone-status-symbol-then-crashed-and-burned
ヘリテージ氏は、BlackBerryが「メールを送信できる携帯電話」としてゲームチェンジャー的存在だったところから、iPhone登場後にはあっという間に市場から駆逐されてしまったという浮沈の激しさを「あまりにも突発的で、暴力的だったので、今ではそのことを理解できない」と表現しています。
ちょうど、BlackBerryの歴史を語る作品として映画「BlackBerry」が2023年に北米をはじめとした国々で公開されました。
BlackBerry | Official Website | May 12 2023
https://www.blackberrymovie.com/
映画の原作となっているのは「Losing the Signal: The Untold Story Behind the Extraordinary Rise and Spectacular Fall of BlackBerry」という書籍。副題を訳すると「BlackBerryの驚異的な台頭と驚異的な没落の裏に隠された秘話」となります。
映画はBlackBerryの創業者であるマイク・ラザリディスとダグラス・フレギンにスポットライトを当て、世界初のスマートフォンをいかに開発したかを描くもので、ヘリテージ氏は「BlackBerryがいっときはすべてを備えていたことを見事に示している」と評価しています。
BlackBerry - Official Trailer ft. Jay Baruchel & Glenn Howerton | HD | IFC Films - YouTube
2020年代からみると信じられないことですが、2000年代後半に「BlackBerryキラー」になることについて、ヘリテージ氏は、技術的な面の難度として「刑務所で大男を殴り倒すのと同じ」と表現しました。
「BlackBerryを持つ」ということは「ネットに接続するためにオフィスのデスクに張り付く必要がなくなる」ということであり、メールへの返信は帰宅したあと夜でも、たとえトイレでもOKになったというのは、現代には当たり前ですが、当時は「驚くほどにフレックス」と捉えられることでした。
あまりにも便利であることから、2006年にはBlackBerryが人々をとりこにする能力のことを指す「crackberry」がウェブスター新世界辞典の「今年の言葉」に選ばれました。また、手首の腱鞘炎の1つであるドケルバン病(ドケルバン腱鞘炎)には「BlackBerry指」の別称がつけられ、2007年に「ワイヤード世代の疫病」とまで表現されています。
これほどまでに魅力的だったのは、文字入力といえば同じキーを何度も押さなければならなかった数値キー入力の時代に、BlackBerry端末がフルキーボード搭載だった点が大きいとヘリテージ氏は振り返っています。
しかし、この隆盛はiPhoneの登場によって打ち砕かれることになります。
2009年にスマートフォン市場のシェアの50%を握っていたBlackBerryは、わずか4年でシェアを3%以下にまで落としました。作家であり技術ライターでもあるジョナサン・マーゴリス氏は「BlackBerry側にも思い上がりがあって、没落を早めてしまった可能性がある」と指摘。当時のBlackBerryは「物理キーボードがなく、電池が1日も持たずに少しの衝撃でスクリーンが破損してしまうスマートフォンなど誰も欲しがらない」という市場調査を信じていたとみられます。また、OSとしてAndroidを導入することも見送り、独自OSに走ったことも、さらなる衰退につながったと考えられます。
Blackberryがわずか4年で市場シェアを50%から3%まで落とした理由とは - GIGAZINE
By Vernon Chan
セレブがBlackBerryを使っている写真を集めていたブログ「Celebrities BlackBerry」は2016年に入って更新が滞り、2016年8月23日に管理人が「残念なことに、いまやセレブたちは全員iPhoneを保有しています。とても悲しいことです」とコメントして、キム・カーダシアンとラッパーのソウルジャ・ボーイがBlackBerryを使っている写真を掲載したのを最後に更新を停止しました。
Celebrities BlackBerry – Celebrity BlackBerry Sightings | The Blog That Show You Famous Celebrities Who Use Their BlackBerry Phones
https://celebritiesblackberry.wordpress.com/
すでに端末としてBlackBerryを使っている人はかなり減っていますが、映画「BlackBerry」の監督で共同脚本とフレギン役も務めたマット・ジョンソン氏は、大衆の好みは気まぐれなので、BlackBerryに起きたことと同じことは今後も起こりうると指摘。いつかiPhoneを超える何かが現れることは避けられないとした上で「そのことは、なんとすばらしい映画になるのでしょうか」と述べています。
ちなみに、映画「BlackBerry」の日本での公開は今のところ予定がないようです。
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