水深約9000メートルで新種の深海ウイルスが発見される、「最も深くから分離されたバクテリオファージ」と科学者
マリアナ海溝の水深約8900メートルで、サイフォウイルス科の新種のウイルスである「vB_HmeY_H4907」が見つかったことが報告されました。これはこれまでで最も深い海から分離されたサイフォウイルスであると研究者らは指摘しています。
Identification and genomic analysis of temperate Halomonas bacteriophage vB_HmeY_H4907 from the surface sediment of the Mariana Trench at a depth of 8,900 m | Microbiology Spectrum
https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.01912-23
A newly identified virus emerges from the dee | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1001896
Scientists in China find mysterious virus at the bottom of the Mariana Trench | Live Science
https://www.livescience.com/planet-earth/scientists-in-china-find-mysterious-virus-at-the-bottom-of-the-mariana-trench
今回、新種のウイルスの発見に成功したのは、中国海洋大学のワン・ミン氏らの国際研究グループです。極地や深海などの極限環境における微生物の生態を調査していた研究グループは、西太平洋にあるマリアナ海溝の水深約8900メートルの堆積物から分離したハロモナス属のバクテリアを培養している最中に、菌がバクテリオファージに感染していることを突き止めました。
バクテリオファージとは、細菌に寄生して増殖するウイルスで、感染した細菌が細胞膜を破壊されて溶けるように消滅する溶菌という現象を引き起こすことで知られています。
研究グループが、「vB_HmeY_H4907」と名付けられたバクテリオファージのゲノムを解析したところ、ハロモナス属の菌に感染する別のサイフォウイルスに近い部分を持つ新種のウイルスであることが判明しました。
深海で見つかった「vB_HmeY_H4907」は、まるでロボットか宇宙船のような正二十面体の頭部と、長い尾部から成る形態を有しています。
最近の研究により、超深海帯、あるいはヘイダルゾーンと呼ばれている海の最も深い領域には微生物が豊富に生息していることが明らかになってきています。一方、ウイルスについてはほとんどわかっておらず、超深海帯のハロモナス細菌に感染することが知られている既知のウイルスは2種、「vB_HmeY_H4907」を含めると3種しか見つかっていません。
研究グループは、「vB_HmeY_H4907」は海洋の最も深くから分離されたサイフォウイルスであると述べました。また、ゲノムの解析によりこれまで見つかっているものとは異なる系統に属していることが示されているため、新しいウイルス科である「スウイルス科(Suviridae)」も提唱しています。
新種のウイルスである「vB_HmeY_H4907」は溶原性ファージで、宿主となるバクテリア内に侵入して自己複製しますが、通常時はバクテリアの細胞を殺さず、細胞分裂とともにウイルスの遺伝物質もコピーされて子孫に受け継がれるとのこと。この性質は、深海の過酷な環境で宿主を殺すことなく増殖するためではないかと考えられています。
研究グループは今後、さらに多くの深海ウイルスを発見して、それらが宿主と相互作用する際の分子機構を明らかにすることを目指しています。ワン氏は「この研究は、ウイルスが存在する地球上の領域であるウイルス圏(virosphere)についての理解を広げることに貢献することでしょう。極限環境は、新しいウイルスを発見するには最適な場所ですから」と話しました。
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