パンジャンドラムらしき乗り物でフロリダから大西洋を横断しようとした男が逮捕される

第二次世界大戦中の珍兵器に造詣が深い人なら、爆雷を搭載した巨大な車輪にロケットを取り付けて爆走させるイギリス軍の試作兵器「パンジャンドラム」の名前を知っているはず。そんなパンジャンドラムを連想させる奇妙な物体に乗り込んでイギリスに向かおうとしていた男性を逮捕したと、アメリカの警察当局が発表しました。

Florida man tried to travel to London by crossing Atlantic Ocean in hamster wheel: Coast Guard
https://www.fox35orlando.com/news/florida-man-tried-to-get-to-london-by-crossing-atlantic-ocean-in-hamster-wheel-coast-guard

Florida man arrested trying to cross the Atlantic Ocean in a bubble
https://www.news-journalonline.com/story/news/local/2023/09/07/hamster-wheel-reza-ray-baluchi-arrested-cross-atlantic-ocean/70783895007/

今回、人間サイズのハムスター用回し車のような乗り物で大西洋横断を試みて逮捕されたのは、フロリダ州在住の男性であるレイ・"レザ"・バルーチ(Ray "Reza" Baluchi)容疑者です。

ハリケーン上陸に備えて海上警備にあたっていた沿岸警備隊は2023年8月26日に、ジョージア州ティビー島の東約70海里(約130km)の洋上を「バブル」と名付けられた乗り物で航行しているバルーチ容疑者を発見し、呼び止めました。

沿岸警備隊はバルーチ容疑者の乗り物を「ハムスターホイール・オブ・ドゥーム」と呼んでいるとのこと。バルーチ容疑者は、「バブル」は6ノット(時速約11キロ)で移動できるため、水上バイクとしてフロリダ州に登録されていると主張しています。

バルーチ容疑者は沿岸警備隊に対し、「ロンドンに向かっている」と説明したとのこと。沿岸警備隊は、「バブル」での航海は危険であると判断して小型船に乗り込むよう指示しましたが、バルーチ容疑者は刃渡り12インチ(約30センチ)のナイフをちらつかせて「バブルから降ろそうとしたら自殺する」と脅しました。

沿岸警備隊はその後、数日間かけてバルーチ容疑者を乗り物から降ろそうとしましたが、バルーチ容疑者が2本のナイフをかざして「爆弾で車輪ごと自爆する」とまで言い張ったため、説得は難航しました。伝えられるところによると、バルーチ容疑者がワイヤーを手にしていたため本当に爆弾を搭載しているかのように思われましたが、バルーチ容疑者は後に爆弾は偽物だと認めたそうです。

沿岸警備隊は、8月29日になってようやくバルーチ容疑者を乗り物から降ろすことに成功し、9月1日にマイアミビーチの沿岸警備隊基地に帰投しました。

逮捕に至るまでの足取りは、バルーチ容疑者の公式サイトで見ることができます。

地元のテレビ局・FOX 35 Orlandoによると、バルーチ容疑者が「バブル」で航海を試みたのはこれが初めてではないとのこと。2014年と2016年にもフロリダの海沿いをバブルで航行中に救出されたほか、2021年にはフロリダ州北部のセント・オーガスティンの海岸に漂着したところをフロリダ州フラグラー郡の警察当局に発見されています。

記事作成時点で52歳のバルーチ容疑者が再三再四にわたり無謀な航海に挑むのは、慈善事業のためだとのこと。イランに生まれ、整備士として訓練を受ける傍らでアスリートとしても活動していたバルーチ容疑者ですが、ラマダン中の食事やマイケル・ジャクソンのTシャツの着用でイランの規則に反し、むち打ちや烙印(らくいん)、手首を木につるされるといった罰則を受けたり、イスラム教に対する罪で懲役2年の判決を受けたりしました。

その後ドイツに亡命し、24歳の時に平和を推進するとして自転車で諸国を回る活動を始めたバルーチ容疑者は、7年間で6大陸55カ国を踏破し合計4万9700マイル(約8000万キロ)を旅したと主張しています。2002年には、アメリカに不法入国しようとして逮捕されたバルーチ容疑者ですが、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の犠牲者のために走ると約束し、釈放されました。

それ以来、バルーチ容疑者は平和や公共事業のためにランニングを行って資金を集めており、今回の「バブル」での大西洋横断もホームレス救済や、沿岸警備隊や消防などを支援するための募金が目的だったと、FOX 35 Orlandoに語っています。しかし、支援の目的であったはずの沿岸警備隊にさんざん迷惑をかけているのも事実で、沿岸警備隊捜査班(CGIS)は9月5日、バルーチ容疑者を「乗船妨害」と「港長命令違反」の罪で(PDFファイル)刑事告発しました。