デザイン

ウィンドウを閉じる「×」ボタンはいつから使われるようになったのか?


Windows 11では、ウィンドウの右上にある「×」アイコンをクリックすると、そのウィンドウを閉じることができます。また、macOS Venturaでもウィンドウ左上の赤い「×」ボタンをクリックするとウィンドウが閉じられます。UIにおける「×」=「ウィンドウを閉じる」というデザインの起源について、SFライターのローレン・ウォーカー氏が解説しています。

X to Close. The origins of the use of [x] in UI… | by Lauren Archer | re:form | Medium
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「『×』をクリックするとウィンドウを閉じる」というデザインはコンピューターにおいてはほぼ標準といっていい概念になっており、さまざまなGUIに採用されています。例えば、Windows 10のエクスプローラーは右上に「×」があり、これをクリックするとエクスプローラーのウィンドウが閉じられます。


また、ウェブブラウザのFirefoxではウィンドウ右上に「×」があるほか、タブの右端にも「×」があります。


アプリケーションのウィンドウだけではなく、ウェブサービスにも「×」のデザインはみられます。例えばGoogleのイメージ検索でクリックした画像の情報ウィンドウを閉じる場合、右上の「×」をクリックします。


記事作成時点でもっともユーザーのシェアが高いのはWindowsです。しかし、1985年に発売されたWindows 1.0のウィンドウには「×」ボタンはありませんでした。


Windows 2.0のウィンドウにも「×」ボタンは見当たらず。


Windows 3.0のウィンドウにも同様に、「×」ボタンはありませんでした。


Windowsのウィンドウに「×」ボタンが初めて登場したのはWindows 95でした。Windows 95ではウィンドウの右上に「最小化(_)」「最大化(□)」「閉じる(×)」のボタンが用意され、以降のWindowsではこの3つがウィンドウの右上に配置されるのが標準となっていきました。


しかし、実はWindows 95の開発中バージョンでは、最小化ボタンと最大化ボタンは配置されているものの、「×」ボタンはありませんでした。つまり、「×」ボタンはWindows 95が製品化される直前に採用されたことになります。


Windows 95は「初心者でもコンピューターを簡単に使えるようにする」という目標で開発され、結果として世界中の企業や家庭で使用されるようになり、今に至るまでWindowsが圧倒的シェアを占めるきっかけとなるOSとなりました。このWindows 95の製品版に「×」ボタンが採用されることで、「×」=「閉じる」という概念が世界的に標準になっていったといえます。ウォーカー氏によれば、LinuxのX Window Systemで「×」ボタンが採用されたのはWindows 95登場以降だそうです。


なぜWindows 95の製品版で「×」ボタンが採用されたのかについて、Windows 95の開発メンバーだったダニエル・オラン氏がウォーカー氏に語ったところによると、1989年にリリースされてmacOSのベースにもなったNeXTのOS「NeXTSTEP」を参考にしたとのこと。


ウォーカー氏によると、Macで「×」ボタンが採用されたのはMacOS X以降。ウィンドウ左上にある赤いボタンにカーソルを重ねると、「×」が表示されます。


MacOS X以前のMac OS Classicでは、ウィンドウ左上に閉じるボタンは配置されていたものの、「×」表記はありませんでした。以下はMac OS System 1の画面。


Mac OS System 2でも「×」は見当たりません。では、NeXTSTEPが「×」ボタンを初めて採用したUIになるのでしょうか?


NeXTSTEPよりもずっと前の1981年に発売されたゼロックスのワークステーション「Xerox 8010 Star Information System」のウィンドウを見ると、「Close」というボタンはありますが、「×」はありません。


1983年にリリースされたGUIベースのオペレーティング環境である「VisiOn」でも、「×」ボタンは見当たりません。


1984年にDigital ResearchがDOSベースのコンピューター向けに開発したGUI環境の「Graphics Environment Manager(GEM)」のウィンドウにも「×」ボタンはなし。


しかし、1985年にAtariが発売した8ビットコンピューター「Atari ST」シリーズ向けのOSであるAtari TOSのウィンドウには、なんと「×」ボタンが配置されています。以下はAtari TOSのバージョン1.0の画面で、ウィンドウの左上に「×」ボタンがあるのがわかります。ウォーカー氏が確認した限りでは、コンピューターのGUIでウィンドウを閉じる目的で「×」表記のボタンが配置されている最古の例がこのAtari TOSだとのこと。


なぜAtari TOSに「×」ボタンがあるのかについて、ウォーカー氏は「Atariが日本文化を借用した一例かもしれない」と推測しています。Atariという社名自体は囲碁の日本棋院初段者である創設者のノーラン・ブッシュネルが囲碁用語から取ったとされており、「×」=「閉じる」という概念もまた日本の価値観に由来している可能性があるとウォーカー氏は指摘しています。

日本では「×」をネガティブ、「○」をポジティブの意味に捉えますが、アメリカでは「×」はむしろポジティブな意味を持つケースが多くあります。代表的な例がPlayStationのコントローラーで、PlayStation 4までは「×」がキャンセル、「○」が決定の意味を持っていましたが、PlayStation 5ではアメリカに合わせる形で「×」が決定、「○」がキャンセルに操作が変更されています。つまり、ウィンドウを「閉じる」という動作に「×」という記号を組み合わせたのは、日本的価値観に影響を受けたからだというのがウォーカー氏の主張です。


ウォーカー氏は「GUIで『×』が最初に登場したのはおそらくAtari TOSで、おそらく日本の『バツ』と『マル』の慣習から影響を受けていると考えられます。そして、Windows 95が直前になってデザインを変更し、そのWindows 95が世界中で大量に採用されたおかげで、『×』は『閉じる』を示す標準記号となり、今日のソフトウェア、アプリケーション、ウェブサービスのデザインを支配する記号となりました」と論じています。

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in ソフトウェア,   ウェブアプリ,   デザイン, Posted by log1i_yk

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