メキシコのバニラ農家は「バニラ泥棒」に悩まされている、メキシコのバニラを取り巻く地下経済とは?


アイスクリームやさまざまなスイーツに用いられるバニラはラン科バニラ属の植物から抽出された香料であり、生産地が限定されている上に栽培が困難であるため、サフランに次ぐ世界で2番目に高いスパイスとして取引されています。そんなバニラの原産地であるメキシコ・ベラクルス州パパントゥラではバニラの盗難が問題になっており、バニラ農家は泥棒に備えて武装するほどだと海外メディアのThe Hustleが報じています。

Why the world’s best vanilla is so easy to steal
https://thehustle.co/why-the-worlds-best-vanilla-is-so-easy-to-steal/


メキシコ東部のパパントゥラは「バニラ発祥の地」とも呼ばれており、この地域に住んでいた先住民族のトトナコ族は長らく最良のバニラ生産者とされていました。近年ではバニラ輸出量においてその他の国に遅れを取っているメキシコですが、依然としてパパントゥラではバニラ農家が多く存在するとのこと。

そんなパパントゥラで15エーカー(約6万m2)のバニラ農園を営む67歳のホセ・コルテス氏は、農園がジャガーや鳥などの自然動物に荒らされる心配に加え、「犯罪者によるバニラの窃盗」にも悩まされていると話します。


実際にコルテス氏は、自分が所有する森の中を歩いている時に武装した男に出会ったことがあるほか、他の農家から毎年のようにバニラが盗まれたという話を聞いているとのこと。しかし、ベラクルス州の法執行機関は麻薬カルテルやギャングによる殺人や誘拐などの凶悪事件に追われており、メキシコ政府もアボカドやラズベリーほどの巨大産業でないバニラを手厚く保護する見込みは薄く、バニラ泥棒が起訴されるケースはめったにないそうです。

そのため、コルテス氏らバニラ農家は泥棒から自分自身とバニラを守るために、自らも武装して農場に向かうことがあります。コルテス氏はThe Hustleの取材に対し、バニラを守るための方法について「常にショットガンを持ち歩くことです」と語りました。


トトナコ族は古くから香水や薬、神聖な儀式などのためにバニラを使用しており、アステカ人やスペイン人による征服によって外の世界へとバニラの魅力が広がりました。バニラの商業市場が登場したのは、ヨーロッパでバニラがセンセーションを引き起こした17世紀のことであり、トトナコ族の人々は積極的にバニラの栽培を行うようになったとのこと。

バニラが高値で取引される理由は、冬でも暖かい熱帯地域でしか育たず、多くの作物とは異なり他の植物と混合した狭い区画で成長する上に、収穫までの手間が非常に膨大なためです。受粉は手作業な上に花が咲くわずか1日のうちに行わなくてはならず、つるの刈り込みや適切な施肥が要求されます。また、1年にわたる栽培の後に収穫したバニラビーンズは、1カ月にわたる乾燥作業を経る必要があり、これらのどのプロセスも機械化されていないそうです。


1930年代には世界のバニラ輸出のうち半分をメキシコが占めていましたが、アボカドやラズベリーなどの北米への輸出が容易な選択肢が登場したこともあり、近年のメキシコにおけるバニラ栽培は減少しています。2022年のメキシコの年間輸出額は58万2000ドル(約8400万円)で世界35位となっており、マダガスカルの6億1900万ドル(約900億円)に大幅に後れを取っています。

しかし、メキシコのバニラ農家は他の作物と混作することでバニラを課税対象から外し、帳簿に載らない非課税の現金収入源としているため、実際のバニラ輸出額は公式に報告されている額の10倍に達する可能性があるとのこと。実際に、先祖代々バニラ栽培を行ってきたコルテス氏は毎年440~660ポンド(約200kg~300kg)ものバニラビーンズを生産し、年間2万8000ドル(約410万円)の収入を得ています。メキシコの約半数の世帯は年収7800ドル(約113万円)以下であるため、バニラ農家としての収入は地元の農家にとって必要不可欠です。


メキシコのバニラ農家のうち80%が盗難の被害を経験したという推定や、パパントゥラから30分ほど離れたグティエレス・サモラでは週に最大4件のバニラ強盗が報告されているといった話があるように、バニラ農家にとって盗難は切実な問題です。

パパントゥラのバニラ農家兼輸出業者であるフアン・サラザール氏は、「夜になると農園には誰もいません。人々はバニラを盗み、私たちをイライラさせます。バニラを世話するのはとても大変なのに、強盗のせいで一晩で失われるかもしれないのです」と述べています。なお、バニラ泥棒は組織犯罪シンジゲートや腐敗した輸出業者と癒着している可能性があるものの、実行犯は地元に住む貧乏な人だとみられています。

また、「バニラ泥棒にせっかく育てたバニラが盗まれるのではないか」という懸念により、農家が本来より早くバニラを収穫してしまい、結果としてバニラの品質が落ちて買い取り価格が下げられてしまうという問題もあるとのこと。

それでも、メキシコの人々はバニラ産業がこのまま衰退するとは思っておらず、農業省もバニラ農家が栽培方法の改良を導入すれば、バニラの年間輸出額が2030年までに800万ドル(約1億1600万円)まで増加すると推定しています。また、ベラクルス州の政治家は州内で売買されたバニラの生産者登録簿を作成し、出どころを追跡できるようにする仕組みを提案しています。

コルテス氏はThe Hustleに対し、「私はバニラを植えることを決してやめません。これは私の文化であり、主な収入源でもあります」と述べました。

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in , Posted by log1h_ik

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