サイエンス

「天文学者」が裁判所で引っ張りだこな理由とは?


科学捜査による正確な証拠が重視される現代の裁判では、医学や工学、心理学などさまざまな分野の専門家が法廷に呼ばれます。実は、一見すると地球上のいざこざとは無関係な天体の世界を追究する天文学者もよく裁判所に呼ばれるとのことで、オーストラリア全土の裁判で証拠を提出してきたオーストラリア国立大学のブラッド・E・タッカー氏が、天文学者としての裁判での経験をつづりました。

Where was the Sun? Here's why astronomers are more useful in court cases than you'd think
https://theconversation.com/where-was-the-sun-heres-why-astronomers-are-more-useful-in-court-cases-than-youd-think-204276


タッカー氏によると、天文学者が法廷に提出する証拠のほとんどは、太陽や月といった天体の位置と明るさを計算した資料とのこと。天文学者にとってはありがたいことに、天体の位置を計算するために用いられているツールは非常に正確で、数百年から数千年は先の未来や過去まで計算することが可能です。

天文学者の見識が必要になる場面として最もわかりやすいのは、交通事故を起こした人が「太陽の光が目に入ってまぶしかった」と主張するケースです。太陽光が人の目をくらませることがあるのは事実ですが、光量は季節や場所などさまざまな要因に左右されます。従って、事故発生時に太陽がどの位置にあったのか、道路の向きや進行方向との関係はどうだったかを断定するには専門家の知識が必要です。


月が裁判の証拠になることもあります。特に、夜中に起きた事件で、現場が街の明かりから遠く離れた暗い場所だった場合は、その夜に月がどのくらいの明るさだったのかが証拠として裁判所に提出されるケースもあるとのこと。また、歴史的な事件などでは、月の見え方や満ち欠け、つまり月相を元に事件が発生した時期が定義されることがあります。

他の分野でも言えることですが、天文学にも限界が存在します。例えば、ある人が窓越しに月を見たという場合、窓の屈折率や気象条件などによって見え方が違ってくることがあるので、天文学者だけでは手に負えない場合もあります。


科学技術の進歩は法律や犯罪に大きな影響を与えており、特に人工衛星は世界各地の多くの事件で使われるようになってきました。タッカー氏によると2022年に始まったロシアによるウクライナ戦争でも、軍の動きや戦争犯罪の証拠として衛星が役立てられているとのこと。

また、密輸や違法な地雷の敷設といった犯罪の捜査にも人工衛星は活用されています。オーストラリアの刑事事件にも人工衛星は使われており、衛星の画像を提供したり、それが何を意味しているのかを説明したりするために専門家が必要とされます。


多くの事件に協力してきたことについて、タッカー氏は「証人として働くことは、私に希望を与えてくれました」と語ります。なぜなら、月の満ち欠けや太陽の位置など、司法がどこまで詳細かつ正確に物事を判断するかをその目で確かめることができるからです。これはまた、社会における専門家の重要性を端的に示す事例にもなります。

タッカー氏は記事の末尾で、「宇宙や天文学も、その分野の専門家を通じて人々の暮らしに直接影響を与えることができます。場合によっては、それが法廷での出来事になることもあるでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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