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YouTube動画のサムネイル製作という仕事はAIに奪われてしまうのか?


YouTube動画に表示される「サムネイル」は視聴者を引きつけるための重要な要素であり、サムネイルのでき次第で動画の再生数が大きく変わってしまうほど。専門のデザイナーが誕生するほど大きな市場となったサムネイル製作ですが、画像生成AIの誕生により人間のデザイナーの仕事が奪われつつあるのも事実です。そんなAIによるサムネイル製作と現場の声について、Rest of Worldがまとめています。

AI comes for YouTube’s thumbnail industry - Rest of World
https://restofworld.org/2023/youtube-thumbnail-ai/

YouTuberにとってサムネイルは動画の再生数を左右する重大な要素です。MrBeastのようなトップクリエイターは1つの動画で最大20種類のサムネイルバリエーションをテストし、デザイナーに最大1万ドル(約140万円)を支払う場合もあるとのこと。こうした需要が世界中のYouTubeサムネイルアーティストの雇用を生み出しましたが、人間の代わりにAIを使いたがるYouTuberや企業も増えてきています。


2023年3月、アメリカを拠点とするAI研究者アナンド・アフジャ氏が「サムネイル・アーティストに代わるAI」であるCTRHeroを発表しました。CTRHeroは多数のソーシャルメディアプラットフォームで成功した何百万ものサムネイルで訓練され、数分以内にサムネイルを作成し、YouTuberの顔を利用したサムネイルを作成することができるものだと宣伝されました。しかし、CTRHeroの登場に多くのアーティストが憤慨し、アフジャ氏に危害を加えると脅すものまで出てきました。

こうした反発もあり、アフジャ氏はCTRHeroをすぐに売却しています。「人々からの反発は理解できる部分もありますが、私にとっては気を散らすものを避けて注力する方が賢明です」と話しています。


Rest of Worldが話を聞いたデザイナーやアーティストは、MidjourneyやAlphaCTRのようなテキストから画像を生成するAIツールの台頭を「不安と好奇心の入り混じった気持ちで見ている」と語ったそうです。

フランスのサムネイルデザイナーであるカルバン・ロラン氏は、サムネイル生成AIについて「以前は、アーティストが人気YouTuberの顔を派手な金色の高級車の横に置いてサムネイルにしようと思ったら、その車のカスタム3Dモデルを作るか、正確なアングルの車の写真を探さなければなりませんでした。しかし、MidjourneyやGenerative Fillのような通常のAIツールを使えば、正しいアングルの画像を生成するよう頼むだけで、少し微調整すれば目当てのものを得ることができます」と冷静に分析しています。ロラン氏はAIの実力を認めつつ、こうしたサムネイル生成AIを支持しておらず、CTRHeroに当初憤慨していたとのこと。


一方でMidjourneyやPhotoshopの画像生成機能などのAIツールをすでにワークフローに取り入れているか、近いうちに取り入れる予定だというアーティストもいます。

2020年まで、フルタイムで働くサムネイルアーティストは数えるほどしかいませんでしたが、新型コロナウイルスのパンデミックによりYouTubeの再生数が大きく伸び、YouTuberにフルタイムで対応するグラフィックデザインの専門家が数多く出現するようになりました。

YouTube関連の求人サイト・YT Jobsによると、同サイトに2023年5月に掲載された2000件以上の求人情報のうち、サムネイルデザイナーは2番目に需要の高い職種であり、掲載件数の19.3%を占めていたそうです。かつてはサムネイルを自作したり、グラフィックデザイナーにせいぜい20ドル(約2800円)というわずかな報酬しか支払っていなかったりしたクリエイターが、2023年には1枚の画像に数万円規模の額を支払うようになっていると、YT Jobsのクリエイターであるパディ・ギャロウェイ氏は分析しています。

こうした求人情報を通じてサムネイル製作を担うアーティストの中にも、AIを取り入れているアーティストがいくらか存在します。実際にAIを使用しているというムアズ・シャイル氏は「最新の依頼は、神経科学者のアンドリュー・ヒューバーマンとテスラCEOのイーロン・マスクを対のスタイルで並べるというものでした。私は基本的にPhotoshopを使い、AIを使って数秒で画像を生成します。今回の依頼では250ドル(約3万6000円)を請求しました」と語っています。シャイル氏が当該依頼で生成したサムネイルの70%はAIによって生成されたものでした。


シャイル氏は腕利きのサムネイルアーティストであり、プロフィールでは自らを「1年あまりで2億5000万回のクリックを誘発した」と宣伝しています。

YouTubeコンサルタントのアーリアン・アヌラーグ氏は、かつて脚本家に費やしていた3分の1の金額で「AIを扱う人」を雇っているとのこと。この従業員はChatGPT Plusを使ってYouTube動画の脚本やサムネイルのアイデアの説明文を下書きし、Midjourneyを使ってイラストを生成しているそうです。

クリエイター・エコノミーのニュースレター「Creator Logic」の創刊者であり著者でもあるアヴィ・ガンジー氏は、Rest of Worldの取材に対し「YouTubeのサムネイルデザイナーが過去の仕事になるとは思いません。工場生産の時代に『ハンドメイド』が商品の品質の証になるのと同じように、AIの時代には『ヒューマンメイド』がデジタル商品の品質の証になると思います。とはいえ、そのような人は少なくなるでしょうし、成功するためには非常に優秀でなければならないはずです」と語りました。

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in ネットサービス, Posted by log1p_kr

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