Metaがカンボジア首相のFacebookアカウントを凍結、政敵への脅迫動画で
1985年以来カンボジアを率いてきたフン・セン首相が、暴力をほのめかして政敵を脅す動画をFacebookに投稿した問題で、Meta監視委員会が動画を残すとのMetaの決定を覆し、動画を削除してフン首相のアカウントを6カ月間凍結することを要請すると発表しました。
Oversight Board overturns Meta's decision in "Cambodian prime minister" case | Oversight Board
https://www.oversightboard.com/news/656303619335474-oversight-board-overturns-meta-s-decision-in-cambodian-prime-minister-case/
Meta should suspend Hun Sen Facebook account in Cambodia, board says - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/world/2023/06/29/meta-hun-sen-cambodia-suspended-accounts/
問題の動画は、2023年1月9日にフン首相の公式Facebookページからライブ配信されたものです。カンボジアの公用語であるクメール語で行った1時間41分の演説の中でフン首相は、2022年の地方選挙で与党のカンボジア人民党(CPP)が不正を行ったとの嫌疑に反論し、疑惑を提起した政敵らに「法制度かこん棒」のどちらかを選ぶよう迫りました。
by Prachatai
具体的には、「法制度を選ばなければ、CPPのメンバーを集めて抗議しお前を殴る」と述べたほか、「ギャングを家に送り込む」ことや、「十分な証拠があれば真夜中に裏切り者を逮捕する」ことなどに言及したとのこと。演説の後半ではややトーンダウンし、「私たちは人々を扇動したり、武力行使を奨励したりはしない」とも話しましたが、ライブ配信後にFacebookページに自動アップロードされた動画が約60万回視聴されるなど、フン首相の演説は注目を集めました。
この動画に対し、3人のユーザーが「暴力や脅迫を禁止したMetaのユーザー規定に違反している」として通報を行いましたが、Metaの審査員2人は当該動画を「Metaのポリシーに違反するものではない」として、動画を残すことを決定しました。これとは別に、この件はMeta社内の専門家に送致され、専門家は動画が「暴力と脅迫を禁止した規定に違反している」と判定しましたが、報道的価値がある政治的発言であることを考慮し、「公益的価値が危害を引き起こすリスクを上回る」として許容すると判断しました。
最終的に動画を残すとしたMetaの決定を不服として、1人のユーザーがこの件をMeta監視委員会に申し立てました。これとは別に、Metaもこの件の判断を委員会に委ねました。付託の中でMetaは、「政治的指導者が発した暴力と扇動ポリシー違反の言論を容認するかどうかの判断において、本件は『安全』と『声』の間にある困難なバランスを伴うものです」とコメントしました。
これを受けて審議を行った監視委員会は、「当該動画を許容することで生じる損害が投稿の公益的価値を上回っているため、Metaがこの件で報道価値の基準を適用したのは誤りだった」として、Metaの決定を覆し動画を削除するよう要請しました。また同時に、フン首相の公式FacebookページとInstagramアカウントを即時に6カ月間凍結するよう求めました。
監視委員会の決定に法的拘束力はありませんが、Metaアジア事業の広報担当者は、動画の削除とフン首相のアカウント停止を含む委員会の勧告を実行することを検討していると述べました。
by MEAphotogallery
2023年7月23日の国民議会選挙を目前に控えたフン首相は、SNSでの勢力拡大に注力しており、6月29日には「Facebookへの投稿を中止して今後最新情報はTelegram、TikTok、YouTubeで発信する」と発表して、Meta監視委員会の決定に先手を打ちました。
カンボジア政府はまだ今回の一件に対してコメントを出していませんが、フン首相は以前から自分が暴力的な発言を行っていることを否定しており、問題の発言についても「カンボジアの法的手続きを確認しただけです」と述べています。
一方、人権擁護団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチでアジア副部長を務めるフィル・ロバートソン氏は、フン首相のアカウント削除について、「長い間待たれていたことです」と話しました。
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