スパイダーバースのアニメーターが「全工程で監督の承認待ち」「1日11時間週7日労働」「100人が逃げ出した」など過酷な労働環境について告白

日本では2019年3月8日に公開されたCGアニメ映画「スパイダーマン:スパイダーバース」からおよそ4年、続編となる「スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバース」が2023年6月16日に公開となりました。興行的には悪くない成績を収めた続編ですが、2度にわたる延期を経験するなど公開前は不穏な空気が漂っていました。ここで実際には何が起こっていたのかについて、「スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバース」に携わったスタッフ4人が匿名で証言しています。

‘Spider-Verse’ Animation: Four Artists on Making the Sequel
https://www.vulture.com/2023/06/spider-verse-animation-four-artists-on-making-the-sequel.html

「スパイダーバース」2作品や「LEGO ムービー」などに携わった名脚本家・監督・プロデューサーのフィル・ロード氏とクリス・ミラー氏は、前述の3作品を始めとするさまざまなヒット作を生み出してきた名コンビとして知られています。特に「スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバース」に関してはロード氏が積極的に口出ししてきたという話ですが、ロード氏の制作管理スタイルには問題があったとスタッフは主張しました。

アニメーションの世界では制作過程において大きな見直しが行われることがよくありますが、エンターテインメント系メディアのVultureは「こうした変更は、開発段階や絵コンテの段階など制作過程の早い時期で起こるのが普通です」と指摘します。しかし、「スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバース」のスタッフが証言するところによると、すでに承認が通ったはずの過程にすら手を加えるよう求められることが頻繁にあり、そのために後ろに控えている制作部門の仕事が停滞することがしばしばあったそうです。

中でもすべての過程において最終的な承認を行いたがるロード氏の存在は大きく、ロード氏の指示で何度もやり直しを命じられたり、ロード氏が絵コンテの最初の3D表現を作成するレイアウトの段階をいじっている間、他のアニメーターたちは3カ月から6カ月もやることがない状態が続いたりすることがあったといいます。その負債は後に1日11時間労働が週7日続くという形になって現れてしまい、この過酷な労働環境が1年以上にわたって続いたため、100人以上のスタッフが辞めていったと証言されています。なお、ミラー氏は制作過程の大半で「行方不明だった」とスタッフは話しました。

この証言についてVultureは製作元のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに確認を求めましたが、同社の共同会長を務めるエイミー・パスカル氏はこうした証言に異議を唱え、ロード氏が映画のすべての過程を承認することにこだわったとされることを否定。長編アニメーションは一般的に「反復プロセス」を伴うと説明し、「スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバースだけでも1000人以上のアーティストと技術者が携わっていたため、100人のスタッフがプロジェクトから離れることを選んだとしても不思議ではありません」と説明したとのこと。

ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるミシェル・グレイディ氏も同意見で、ロード氏に遅れの責任はないと主張。「本当にどの映画でもあることで、スタッフには『少しイライラすることもあるでしょうが、これがプロセスなのです』といつも説明するようにしています」と述べました。

シリーズ3作目となる「スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」は2024年3月に公開されることがすでに発表されていますが、スタッフは「3作目に関して進展があったのは簡単なテストくらいです。みんなアクロス・ザ・スパイダーバースに全力を注いでいて、かろうじてゴールラインを越えたところなので、みんなは『ああ、そうだ。またひとつやらなければならないんだ』と思っているのです」と話し、予定されている時期に映画が公開されることはないだろうとの見方を示しました。