サイエンス

ナイル川沿いに作られた古代の構造物が「川の流れを制御する世界最古のシステム」だったことが判明


アフリカ大陸北東部を流れるナイル川は、古来より多くの人々を養ってきた歴史的に重要な河川であり、エジプトでピラミッドが建設された際には物資運搬にも利用されていました。新たに、西オーストラリア大学・大英博物館・スーダン国立古物博物館公社などからなる国際的研究チームの調査で、スーダン北部からエジプト南部のナイル川沿いに作られた構造物が、「川の流れを制御する世界最古のシステム」だったことが判明しました。

Three thousand years of river channel engineering in the Nile Valley - Dalton - Geoarchaeology - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/gea.21965


Walls along River Nile reveal ancient form of hydraulic engineering
https://www.uwa.edu.au/news/Article/2023/June/Walls-along-River-Nile-reveal-ancient-form-of-hydraulic-engineering

Ancient Structure Along River Nile Is Oldest Hydraulics System of Its Kind : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/ancient-structure-along-river-nile-is-oldest-hydraulics-system-of-its-kind

水制(groyne)」とは土砂や水の流れを制御するために作られる河川の制御構造物であり、多くの場合は川岸から垂直に突き出た突堤として建設されます。水制は洪水時に浸食のプロセスを遅らせるなどの効果を持っており、今日でもさまざまな河川で見られます。


西オーストラリア大学人文科学部のマシュー・ダルトン博士らの研究チームは、現代のエジプト南部からスーダン北部にまたがるヌビアと呼ばれる地域のナイル川周辺を調査し、約1100kmにわたって水制をマッピングしました。ダルトン氏は、「衛星画像・ドローンおよび地上調査・歴史的資料を使用して、エジプト南部のナイル川第1瀑流(ばくりゅう)からスーダンの第4瀑流の間に約1300もの水制を見つけました」と述べています。

発見された水制の多くは、過去の気候変動によってすでに干上がっている古代ナイル川の流域や、ナイル川の川床で発見されました。中には、19世紀の旅行者の記録や20世紀前半にイギリス空軍が撮影した航空写真のアーカイブに残っているものの、すでにアスワン・ハイ・ダムの底に沈んでいるものも含まれていたとのこと。

以下は、実際に研究チームが特定した水制の写真です。分厚い石を横向きに並べたものから平たい石を垂直に重ねたものまで、水制の構造にはさまざまな種類があることがわかります。


研究チームは古代ヌビア人が作った水制の役割について、「ナイル川が運んでくる肥沃(ひよく)な土砂をせき止める」「土地を灌漑(かんがい)する」「堤防の浸食を防ぐ」「季節的な洪水から周辺地域を守る」「釣りのための人工プールを作る」「風で運ばれてきた砂が作物に被害を及ぼすのを防ぐ」など、さまざまな用途があったと考えています。

ナイル川沿いに水制を作るという慣行は、19世紀初頭にさかのぼる比較的近代のものだと思われてきましたが、ヌビアにはもっと古いものと思われる水制もありました。ナイル川沿いに住む古代ヌビア人は運河や港を建設したことが知られていましたが、水制が独立して年代測定されたことはなかったとのこと。

水に沈んでいる水制は作られた正確な年代を測定することが困難ですが、アマラ西と呼ばれるスーダンの遺跡付近で見つかった水制を放射性炭素および光ルミネッセンス年代測定技術で分析したところ、いくつかの水制は紀元前1000年頃に作られたものであることが特定されました。これは、中国の黄河で見つかっているこれまで最も古いとされてきた水制より2500年も前に、ヌビアの人々が水制を作っていたことを示しています。


ダルトン氏は、「これらの壁は毎年のナイル川の氾濫中に肥沃な土砂を閉じ込め、人工的な灌漑なしで埋め立てた農地で作物を栽培することを可能にしました」「放射性年代測定から、この地域の先住民族であるヌビア人やエジプト新王国時代のファラオが築いた街の住民により、このような景観が形成されたことがうかがえます」と述べています。

過去の気候変動によってナイル川の流れも変わり、一部の支流は完全に干上がって水制が荒廃し、別の水制は川底に沈んでしまいました。しかし、研究チームがスーダンの農民から話を聞いたところ、1970年代になっても水制は作られ続けており、水制によって作られた一部の土地では現代でも耕作が行われていたとのこと。

以下の写真は20世紀に作られた水制を撮影したものであり、隣接する埋め立て地で作物が栽培されていることがわかります。ダルトン氏は、「この信じられないほど長寿命な水利技術は、3000年以上にわたりヌビアの厳しい自然の中で食料を育て、地域社会を繁栄させるために重要な役割を担っていたのです」と述べました。


また、ナイル川西岸にあるソレブ古代寺院付近では、ナイル川の中に重さ100kgの岩で作られた全長700mに及ぶ壁があることも判明しました。川に向かってに作られたこれらの壁は、流れの穏やかな水路を作り出し、船へのアクセスを改善したとみられています。

これらの構造物の正確な年代測定を行うにはさらなる調査が必要ですが、付近では3000年前の水制も見つかっていることから、これらの構造物も同じくらい古い可能性があります。ダルトン氏は、「これらの記念碑的な水制は、ナイル川に沿って資源・軍隊・人・思想の長距離移動を促進し、古代エジプトとヌビアの人々がつながるのを助けました」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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