サイエンス

タコは自分のRNAを書き換えることで水温の変化に適応しているという研究結果

by Robin Gwen Agarwal (ANudibranchMom on iNaturalist)

変温動物であるタコは体温調節の機能を体内に備えていません。そのためタコの脳は、水温の変化に対して常に危険にさらされています。しかし非常に高い知能を持つタコは水温の変化に応じて、神経細胞のRNAをその場で書き換える機能を備えています。その結果タコは水温の高低に対応しているという研究結果が、シカゴ大学海洋生物学研究所のジョシュア・ローゼンタール氏らの研究チームによって示されました。

Temperature-dependent RNA editing in octopus extensively recodes the neural proteome: Cell
https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.05.004


Octopuses Can Rewire Their 'Brains' by Editing Their Own RNA on The Fly : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/octopuses-can-rewire-their-brains-by-editing-their-own-rna-on-the-fly

Octopuses rewire their brains to adapt to sea | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/991042

生物の形質や性質が変化する「突然変異」はDNAに変化が生じることで発生します。突然変異は何世代にもわたって持続することもある不可逆的な変化である一方、RNAの書き換えは、個体が環境の変化に適応するために行われる一時的な手段です。一般的にRNAの書き換えは多くの植物で行われていますが、動物においてはタコやイカなどの頭足類以外では珍しい行動だとされています。

ローゼンタール氏は「RNAを書き換えることで、生物は多様なタンパク質をいつでもどこでも発現させることができます」と述べる一方で、「頭足類によるRNAの書き換えは、環境の変化に適応するための手段かについてはこれまで明らかにされていませんでした」と指摘しています。そこで研究チームはタコが水温の変化に適応するためにRNAを書き換えるかどうか、またRNAを書き換えることでタコの脳内のタンパク質の機能に影響があるかどうかを調査しました。ローゼンタール氏らによると、野生のタコはさまざまな水深に移動した際の急激な水温の変化と、季節の変わり目といった緩やかな水温の変化の両方にさらされているとのこと。

研究チームは、RNAの書き換えが水温の変化に関連しているかどうかを調べるため、野生のカリフォルニア・ツースポット・タコを捕獲して、温かい海を模した22℃の水槽と冷たい海を模した13℃の水槽に分けて、それぞれ順応させました。数週間後、それぞれのタコのRNAをDNAと比較し、既知の編集部位6万カ所以上でRNA編集が行われた痕跡

by Jerry Kirkhart

テルアビブ大学のエリー・アイゼンバーグ氏は「水温に適応するためのRNAの書き換えは、今回調査を行った約6万カ所の編集部位のうち、約3分の1となる2万カ所以上の部分で観測されました」と報告しました。また「書き換えが行われるRNAは、神経系に関わるRNAであることが多く、冷たい海水のタコの方がより頻繁にRNAの書き換えを行っていました」と述べています。

次に研究チームはタコのRNAの書き換えが行われるタイミングについて調査を行いました。実験ではタコの幼体を使い、約20時間かけて14℃から24℃まで0.5℃刻みで水温を上昇させました。また同時に24℃から14℃まで0.5℃ずつ水温を低下させる実験も行っています。その際に、水温変化前、水温変化直後、4日後の時点でのRNAの書き換えの程度を測定しました。実験の結果、水温の変化の完了から1日以内に、RNAの大きな変化が行われていることが観測され、4日後の時点ではその後も持続する新たなRNAの状態への変化が完了していたことが明らかになりました。セント・フランシス大学のマシュー・バーク氏は「私たちはこれまで、タコのRNAの書き換えが数週間以内に行われるのか、または数時間で行われるのか全くわかっていませんでした」と述べています。

次に研究チームは、タコのRNAの書き換えがタンパク質の構造や機能に影響を与えるかについて調査するため、神経系の機能に重要なキネシンシナプトタグミンという2つのタンパク質に着目し、RNAの書き換え前後を比較しました。その結果、温かい環境に置かれたタコでも、冷たい環境に置かれたタコでも同様にRNAの書き換えによってこれらのタンパク質の構造に変化が生じ、またその機能に影響を与えていることが確認されました。

by Martinus Scriblerus

また、RNAの書き換えによる水温変化への適応は今回調査されたカリフォルニア・ツースポット・タコだけでなく、近縁種のヴェリル・ツースポット・タコでも同様に観測されたことから、研究チームは他のタコやイカでも温度に適応するためのRNAの書き換えを行っていると推測しています。

しかし、タコがこのRNAの書き換えをどのように制御しているかや、なぜ水温が低いほど頻繁なRNAの書き換えが行われているかなどについては不明点が多いとのこと。研究チームは今後、これらの疑問点を解決するとともに、タコや他の頭足類が低酸素状態や水質汚染などの水中の環境に応じてRNAの書き換えを行っているかについて調査を行う予定としています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1r_ut

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