サイエンス

戦車に着想を得た「変形する抗生物質」が開発される、薬が効かないスーパーバグへの対抗策となるか


抗生物質の登場によって人類は感染症の脅威を劇的に抑えることに成功しました。しかし、近年では抗生物質に対して耐性を持つ「スーパーバグ」が登場しており、既存の抗生物質が効果的に働かなくなりつつあります。そんな中、コールド・スプリング・ハーバー研究所の研究チームが「構造を変化させられる抗生物質」の開発に成功しました。この変形抗生物質が実用化されれば、スーパーバグへの有効な対策となることが期待されています。

Shapeshifting bullvalene-linked vancomycin dimers as effective antibiotics against multidrug-resistant gram-positive bacteria | PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2208737120


New shape-shifting antibiotics could fight deadly infections | Cold Spring Harbor Laboratory
https://www.cshl.edu/new-shape-shifting-antibiotics-could-fight-deadly-infections/


抗生物質は細菌の機能を抑制して死に至らしめる物質で、細菌を原因とする病気の治療に用いられています。しかし、「ワクチンが効きにくい新型コロナウイルスの変異株」が話題になっているのと同様に、細菌の中には変異を繰り返して「抗生物質への耐性」を獲得したものも存在しています。抗生物質に対する耐性を持つ細菌は「スーパーバグ」と呼ばれており、スーパーバグが増加し続ける一方で新たな抗生物質の開発は鈍化しつつあります。

スーパーバグが増加した結果、アメリカでは年間約300万人がスーパーバグに感染し、年間3万5000人が死亡する状況に至っています。スーパーバグによる影響はアメリカだけでなく世界中で顕著になっており、厚生労働省でもスーパーバグへの対策が議論されています。


スーパーバグに対抗するには抗生物質の使用量を減少させる他、スーパーバグが対応できない新たな抗生物質を開発する必要があります。しかし、2023年には世界保健機関(WHO)が「すでにスーパーバグに対する特効薬はない」と結論付ける報告書を発表するなど、抗生物質の開発が鈍化しているのが現状です。

そんな中、コールド・スプリング・ハーバー研究所の研究チームは、構造を変化させられる抗生物質を開発したことを発表しました。研究チームの一員であるJohn E. Moses教授によると、開発のアイデアは軍事訓練を視察して「回転砲塔を装備した戦車」を見た際に思い浮かんだとのこと。研究チームは構造を何通りにも変更できる分子「ブルバレン」を既存の抗生物質「バンコマイシン」と組み合わせることで、「構造を変化させられる抗生物質」を実現しました。


バンコマイシンに対して耐性を持つ「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)」に感染した蛾(ガ)に新開発の抗生物質を投与した結果、バンコマイシンを投与した際と比べて細菌除去効果が大きいことが確認されました。さらに、VREが抗生物質に対する耐性を発達させる様子も確認されなかったとのこと。Moses教授は、抗生物質の構造を変化させる技術を用いて、多数の新薬を開発できる可能性があると述べています。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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