サイエンス

性病のひとつ「淋病」の治療が「スーパー淋病」登場により不可能になりつつあるとWHOが警告

by John Voo

近年になって抗生物質に強い耐性を持つ「スーパーバグ」という細菌が数多く報告されていますが、淋病を引き起こす淋菌の中にもスーパーバグが登場しており、世界中に広まっています。WHOはこの「スーパー淋病」に対して、現在治療に用いられている抗生物質が効き目を生み出さないとして、新たにガイドラインを改訂しました。

WHO | Growing antibiotic resistance forces updates to recommended treatment for sexually transmitted infections
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2016/antibiotics-sexual-infections/en/

Gonorrhea Is Becoming Untreatable, U.N. Health Officials Warn : The Two-Way : NPR
http://www.npr.org/sections/thetwo-way/2016/08/30/491969011/u-n-health-officials-warn-gonorrhea-is-becoming-untreatable

スーパーバグについては近年になって数々の報告があがっており、2016年6月には「2050年までに抗生物質の効かない伝染病が流行し、年間で1000万人(3秒に1人が死ぬレベル)を死に至らしめることで世界経済に100兆ドル(1京1000兆円)のダメージを与えるかもしれない」という報告がイギリス政府によって公表されました。

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このようなスーパーバグは、女性の骨盤内炎症性疾患や子宮外妊娠を引き起こす性病の1つである淋病の病原菌である淋菌の中にも存在します。抗生物質に強い耐性を持つ淋菌は2011年に日本で感染例が報告されてから広まりをみせ、2015年には「イギリスで抗生物質に強い耐性を持つ『スーパー淋病』が急速に広まっており、まもなく制御できなくなる可能性がある」という内容が報じられていました。

そして新たに、2016年8月30日(水)、世界保健機関(WHO)が1990年代初頭から使われていたキノロン系抗生物質は、もはや世界にまん延しているキノロン系抗生物質に耐性を持つ淋菌に対して推奨できないとしてガイドラインを改訂しました。キノロン系抗生物質に代わってWHOが推奨しているのはセファロスポリン剤と呼ばれる抗生物質です。

淋病は何百年にもわたって人類を苦しめてきた伝染病ですが、ペニシリンが発見されてからは、治療が大きく前進しました。しかし、かつてはペニシリン・アンピシリン・テトラサイクリン・ドキシサイクリンといった一般的な抗生物質で治療が可能だった淋病ですが、淋菌が抗生物質に対して耐性を持つようになってからは、あっという間にいずれの抗生物質も効力を失いました。ジョンズ・ホプキンズ大学で感染症を研究するジョナサン・ゼニルマン教授は「もしこれが人間だったとしたら、信じがたいほどにクリエイティブな人ということになります。この細菌は恐るべき能力で薬に適合し、耐性のメカニズムを発達させたのですから」と語っています。

by Giorgia Pallaro

このことからもわかるように、WHOがガイドラインを変更し、治療に使われる薬を変えたからといって根本的な解決にはなりません。現在は効き目が認められている薬に対しても、いずれは菌が耐性を取得する可能性があるためです。現に2012年にはアメリカ疾病管理予防センター(CDC)が、現在WHOが推奨しているセファロスポリン剤について「淋病に対して効き目がなくなる恐れがある」と警告しており、アメリカの医師に対してセファロスポリン剤を処方しないことを推奨しています。そして、この時以降CDCは淋病に対してセフトリアキソンとアジスロマイシンという2種の抗生物質を併用することを推奨していましたが、2014年7月にはこの組み合わせさえ効き目がなくなっているという調査結果が発表されています。

WHOによると、淋病の感染者は毎年7800人とのこと。現存する抗生物質の効き目がなくなっていく方向にあるということで、アメリカ政府はCDCと国立衛生研究所に数百万ドルを費やして、新薬の開発を急いでいます。このような現状について、WHOのテオドラ・ウィー氏は「私は今後5年以内で新薬が登場すると考えています」と語っています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa