オランダの基地で「アメリカ軍の核爆弾が壊れる事故」が発生していた可能性があるとアメリカ科学者連盟が主張、ペンタゴンは「訓練用のダミー」と否定
マンハッタン計画に参加した原子力科学者らによって結成された非政府組織(NGO)のアメリカ科学者連盟が2023年4月3日に、オランダの軍事基地で破損した核兵器の検分が行われている場面とする写真を公開しました。アメリカ軍の核兵器を保管するヨーロッパの基地で核兵器事故が発生した可能性があるとの指摘に対し、アメリカ国防総省は写真に写っているのは実物の核兵器ではないと否定しました。
Was There a U.S. Nuclear Weapons Accident At a Dutch Air Base? – Federation Of American Scientists
https://fas.org/blogs/security/2023/04/volkel-nuclear-weapon-accident/
‘Damaged nuclear bomb’ at Dutch base was dummy weapon, Pentagon says | Nuclear weapons | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2023/apr/03/us-nuclear-bomb-may-have-been-damaged-in-accident-at-dutch-base-report-says
問題の写真が以下。アメリカ科学者連盟によると、この写真に写っているミサイルのような兵器は、航空機に搭載可能な核爆弾としてロスアラモス国立研究所が開発した「B61」と思われるとのこと。兵器は大きく折れ曲がっており、ピンク色のテープで穴がふさがれています。また、尾翼も1枚欠けています。
床に座って兵器を調べている2人の職員は、「EOD」と書かれた腕章を着用しています。これは、2人が爆発物処理班(Explosive Ordnance Disposal)であることを意味しています。また、左に立っている職員が手にしている書類には、アメリカ連邦政府情報公開法(FOIA)に基づいて機密解除された機密文書に似た赤い点線の模様が付いているように見えます。
問題の写真は、ロスアラモス国立研究所が就職希望の学生向けに行った2022年のプレゼンテーションに含まれていたもの。撮影日時は不明ですが、撮影場所はオランダのフォルケル航空基地ではないかとアメリカ科学者連盟は考えています。
その根拠となる資料の1つが以下。これはオランダのカタリナ=アマリア王女がフォルケル航空基地を視察した際の写真として2022年に投稿されたツイートの画像で、壁や照明の見た目が上記の核兵器の写真とよく似ています。また、足元には核爆弾「B61」を格納するために設置された地下兵器保管システム「WS3」があります。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻から1年という節目に、フォルケル空軍基地の第312飛行隊の司令官がNATO防衛の決意を新たにするという内容のツイートに添付されていた動画にも、最初の写真とよく似た背景が映り込んでいます。この動画では他にも、ヘルメットをかぶる際についていたキノコ雲がプリントされたバイザーが、誤ったメッセージを与えないようにとの配慮からか、次のカットでは取り外されている様子も確認できます。
フォルケル空軍基地は、アメリカとの核共有協定の一環としてB61核爆弾を保管しているEU5カ国6基地のうちの1つ。ヨーロッパに合計100個あるB61核爆弾のうち、10~15個がフォルケル空軍基地に配備されていると考えられています。
専門家によると、B61は旧式の爆弾であり、影響を最小限にしつつ軍縮を実現するためにもヨーロッパから引き上げるべきだと提唱されてきたとのこと。これを受けて、オバマ政権は核爆弾の撤退を検討していましたが、アメリカの「核の傘」は自分たちを守る象徴だと考える一部のEU加盟国の反対に遭って難航し、2014年のロシアによるクリミア併合を機にこの計画は完全に立ち消えになりました。その代わりにB61は近代化されることが決まっており、近いうちに最新版の「B61-12」がヨーロッパに持ち込まれる予定です。
在欧アメリカ空軍とロスアラモス国立研究所はアメリカ科学者連盟へのコメントを拒否しましたが、国防総省の広報担当者は記事公開後の声明で「どの軍事施設にも有事への対応チームがあり、チームは一緒に訓練しなければなりません。写真はその訓練の模様として、募集マニュアルに掲載されたものです」と述べて、写真は本物の核兵器事故のものではないと否定しました。
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