サイエンス

ジェルネイルを硬化させるためのUVライトが皮膚の細胞死やDNA損傷を引き起こす可能性がある


「ジェルネイル」はゲル状の樹脂を爪に塗って硬化させるタイプのネイルであり、仕上がりがツヤツヤしており爪にぷっくりと厚みが出ることや、マニキュアよりも長持ちする点などが人気を集めています。ところが、一部のジェルネイルを硬化させるために使われているUV(紫外線)ライトが皮膚の細胞死やDNAの損傷を引き起こす可能性があるという研究結果が発表されました。

DNA damage and somatic mutations in mammalian cells after irradiation with a nail polish dryer | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-35876-8

In Cells, UV-Emitting Nail Polish Dryers Damage DNA and Cause Mutations
https://today.ucsd.edu/story/uv-emitting-nail-polish-dryers-damage-dna-and-cause-mutations-in-cells

Getting Your Nails Done Frequently Could Damage The DNA in Your Hands : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/getting-your-nails-done-frequently-could-damage-the-dna-in-your-hands

紫外線(UV)は波長が可視光線より短い10~400nmの光線のことであり、殺菌消毒作用などの有用な作用がある一方で、皮膚の日焼けや細胞の損傷といった悪影響も引き起こすことが知られています。しかし、ネイルサロンなどでジェルネイルを硬化させるために使われる340~395nmのUVライトについては、皮膚の細胞に及ぼす影響の分子的理解が十分ではありません。


アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校で生物工学や分子医学を研究するルドミル・アレクサンドロフ准教授は、歯科医院の待ち時間に読んだ雑誌で、美人コンテストの出場者が手の指にまれな皮膚がんを発症したという記事を読んだとのこと。この記事に興味を持ったアレクサンドロフ氏がさらに調査したところ、コンテストの出場者やエステティシャンなどのジェルネイルを頻繁に受ける女性が、珍しい「指の皮膚がん」を発症したという報告がいくつか見つかったそうです。

アレクサンドロフ氏は、「医学誌に見られた多くの症例報告は、頻繁にジェルネイルを着けることがこのタイプのがんを引き起こす可能性があると示唆しています」と述べています。その一方で、ジェルネイルの硬化に使われるUVライトが細胞にもたらす分子的影響については詳しく研究されていなかったとのことで、アレクサンドロフ氏は自分の研究チームで実験を行うことにしました。


研究チームはヒトの表皮にあるケラチノサイト(角化細胞細胞)と包皮線維芽細胞、そしてマウスの胚由来線維芽細胞をペトリ皿に入れ、UVライトを照射する実験を行いました。

その結果、20分間にわたりジェルネイル用UVライトを照射すると20~30%の細胞死が発生することが判明したほか、20分間のUVライト照射を3日連続して行うと細胞の65~70%が死亡することがわかりました。また、照射期間後も生き残った細胞において、皮膚がんに関連するDNA損傷や突然変異の兆候がみられたと研究チームは報告しています。

アレクサンドロフ氏は、「私たちはまず、ジェルネイル用UVライトの照射によってDNAが損傷することを発見しました。さらに、DNA損傷の一部は時間が経っても修復されず、UVライトを照射するたびに突然変異が起こることもわかりました。最後に、紫外線を浴びるとミトコンドリアの機能障害が起こり、それがさらなる変異を引き起こす可能性があることもわかりました。皮膚がんの患者を調べたところ、UVライトを照射した細胞で見られたものとまったく同じパターンの突然変異が見られました」と述べています。

なお、一般的なジェルネイルの施術におけるUVライトの照射時間は合計約10分ほどとのことで、今回の研究で採用された20分という照射時間は、実際の施術と比べるとかなり長時間です。しかし、今回の研究結果はがんリスクの上昇を直接的に示すものではないものの、UVライトの慢性的な使用が人間の細胞を損傷させることを示すものです。


論文の筆頭著者である博士研究員のマリア・ジヴァギ氏は、もともとジェルネイルのユーザーであったものの、今回の研究結果を見てジェルネイルの使用を断念したとのこと。「数年前から定期的にジェルネイルを使うようになりましたが、ジェルネイルの乾燥装置から出る光が細胞死に影響すること、そしてたった1回20分の施術でも実際に細胞が変異することを目の当たりにして驚きました。これは憂慮すべきことだと思い、ジェルネイルの使用を中止することにしました」とジヴァギ氏は述べています。

用心深いジヴァギ氏はジェルネイルの使用を断念しましたが、今回の研究結果は必ずしもジェルネイル用UVライトが実際の害につながることを意味していません。1年に1回ほどジェルネイルの施術を受けたくらいではほとんど影響がない可能性も高く、どれほどの頻度でジェルネイルを着けるとリスクが増加するのかを定量化するには、さらなる研究が必要となります。また、日焼け止めを塗ったり爪以外を隠す手袋を着用したりして、UVライトの影響を軽減することも可能かもしれません。

研究チームは論文で、「ジェルネイル用UVライトを定期的に使用している人における手の皮膚がんリスクを正確に定量化するため、今後の大規模な疫学調査が必要です。このような研究が完了し、一般の人々に情報を提供できるようになるには、少なくとも10年はかかると思われます」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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