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YouTubeが動画変換に特化したチップ「Argos」を独自開発した理由とは?


世界最大の動画共有プラットフォームであるYouTubeには毎分500時間分以上もの動画がアップロードされるため、Googleのデータセンターの演算の多くが動画変換に費やされています。そこで、YouTubeは動画変換に特化したチップ「Argos」を独自に開発しています。GoogleがArgosを開発した経緯について、IT系メディアのProtocolがまとめています。

YouTube custom Argos ASIC chips are the future for Big Tech - Protocol
https://www.protocol.com/enterprise/youtube-custom-chips-argos-asics

Googleはテンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)と呼ばれる機械学習に特化した特定用途向け集積回路(ASIC)の設計に数百億円を投じていました。GoogleのAI関連への取り組みが競合他社から一歩リードしているのは、このTPUの技術によるものです。

一方で、GoogleはTPUを開発する中で、改善できるコンピューティングがAIだけではないと気づいたとのこと。Googleのエンジニアリング担当ヴァイスプレジデントであるパータサラシー・ランガナタン氏は、Googleのデータセンターで最も計算量の多いアプリケーションはYouTubeの動画変換であることに注目しました。YouTubeには毎分500時間分もの動画がアップロードされており、スマートフォンやテレビ、PCなどさまざまなデバイスで再生できるようにするため、データセンターで動画の変換作業を行っており、1つの動画につき15種類もの形式に変換することもあるそうです。

しかし、Googleのデータセンターで使われているチップは、動画変換が得意というわけではありませんでした。そのため、AIに特化したASICではなく、最も頻繁に行われている動画変換を効率的に行える強力なチップが必要だとランガナタン氏は考えたわけです。


ランガナタン氏とその同僚であるダナー・ストドルスキー氏は、YouTubeのスコット・シルバー副社長宛に、約40人のスタッフと数億円単位の予算を要求するメールを送ったとのこと。その後、YouTubeのスーザン・ウォシッキーCEOと10分間のミーティングを行い、YouTube初の動画変換特化チップの開発プロジェクトにゴーサインが出されました。シルバー副社長は「経済性、作業量、そして私たちの仕事を考えると、ランガナタン氏らのアイデアは非常に理にかなっていると思いました」と述懐しています。

YouTubeの動画変換に特化したチップは「Argos」というギリシャ神話の怪物になぞらえたコードネームが与えられました。Argosの存在は2021年4月に公開されており、どんな構想のチップなのかは以下の記事にまとめられています。

YouTubeが動画変換のために独自開発したチップ「Argos」とは? - GIGAZINE


ITコンサルティング企業・D2D Consultingのジェイ・ゴールドバーグ社長は「マージン面で数百円節約するという目的は、チップ設計者を雇って育成する膨大なコストに見合うほどの価値はありません。先進的なチップを新しく開発するのは、試作品を作るだけでも数百億円かかり、さらに完成までに数億円のコストがかかります」と述べています。こうした意見に対して、シルバー副社長は「私たちの関心はお金の節約ではありません。私たちが本当にやりたいことは、従来と同等以上のクオリティの体験を視聴者に提供することです」とコメントしています。

また、シルバー副社長は「機械学習のトレーニングや推論について考えた時、これらは本当に大きく興味深いワークロードで、CPUだとうまく処理できなかったものでした。動画変換についても、従来のGPUでも十分に対応できるかもしれませんが、そのために年間数百億円も支払っているのであれば、動画変換に特化したASICの開発に投資する余地はあるでしょう」と述べました。


さらにProtocolは、Googleが動画変換に特化したチップを開発した動機はコスト削減だけではなく、チップ市場の大きな変化も理由の1つだと指摘しています。1990年~2000年代は、大手ハイテク企業が要求するチップを作るために何十者もの企業がしのぎを削っており、その激しい競争によって多くの選択肢が生まれていました。しかし記事作成時点では、データセンター用チップを作る企業Intel・AMD・NVIDIAという大手チップメーカー数社しか存在しません。そのため、大手ハイテク企業は自分が求めるチップではなく、各メーカーが作った汎用的なプロセッサを使うことになります。もちろんそういったプロセッサも性能は十分高いのですが、使用目的に特化したものではありません。

汎用プロセッサではなく独自開発した新しいチップを採用するということは、チップを取り付ける基板やデータセンターのラックの設計、各クラスタの構成など、データセンターのマシン構成を根本から考え直す必要があります。ランガナタン氏は「素晴らしいハードウェアを開発することは可能です。しかし、一緒に使うソフトウェアが新しいチップで実際に動作するように構築しなければ、コンパイルやツール、デバッグ、デプロイメントなど、さまざまな作業が発生することになります」と述べています。

結果としてGoogleは「Taffel」と呼ばれる同時のElectronic Design Automation(EDA)ツールを開発し、TPUとArgosプロセッサーの開発に役立てています。ランガナタン氏は「ハードウェアの設計にソフトウェア中心のアプローチを用いるという考え方は、Argosで非常に強く推し進めたことです」と述べました。

YouTubeはArgosを含めたハードウェア構成をVCU(ビデオ・コーディング・ユニット)と呼んでおり、毎分500時間分もアップロードされる動画をさまざまな形式に変換するために使用しています。Argosに取り入れられた新しい設計により、動画変換の計算性能は従来の20~33倍に向上。Googleは記事作成時点で第2世代のArgosチップを世界中にある数千台のサーバーに配備しており、次世代のチップも2種類開発しています。


Protocolは「GoogleがNVIDIAやAMD、Intel製のチップに対抗できるVCUを1世代作っただけでは十分ではありません。カスタムチップの開発に意味を持たせるためには、Googleは半導体大手の何年も先を行く必要があります。そうでなければ、半導体大手が同じようなチップを開発するのを待つ方がより理にかなっています。しかしYouTubeにとっては、1つの目的に対して非常に優れたチップを設計し、それ以外を高価な汎用チップに任せる方が、はるかに理にかなっているのです」と述べています。

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in ネットサービス,   ハードウェア, Posted by log1i_yk

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