アート

世界中で話題になった「おばあちゃんによる最悪の芸術品修復」から10年、町とおばあちゃんに起こった変化とは?


2012年、スペイン・ボルハ出身の老婦人であるセシリア・ヒメネスさんが、町の教会に飾られていたエリアス・ガルシア・マルティネスによる有名なフレスコ画「この人を見よ」を元からかけ離れたものに修復してしまうという事態が発生しました。ヒメネスさんによる修復は「最悪の芸術品修復」と呼ばれ、世界的に報じられることとなったのですが、この修復作業が行われてからの10年間で一体何があったのかを海外メディアのArchydeがまとめています。

10 years of Ecce Homo: the worst artistic restoration that changed a city in Spain | Society - Archyde
https://www.archyde.com/10-years-of-ecce-homo-the-worst-artistic-restoration-that-changed-a-city-in-spain-society/

スペイン・サラゴザ出身のエリアス・ガルシア・マルティネスによるフレスコ画である「この人を見よ(Ecce Homo)」は、いばらの冠を頂くイエス・キリストの姿を描いたもの。貧困と困窮に苛まれていた当時のスペインで、ボルハのサントゥアリオ・デ・ミゼリコルディアにある教会の依頼で、マルティネスはこのフレスコ画を描くことになったといわれています。マルティネスはボルハで休暇を過ごしている際に、教会の柱に「この人を見よ」を描いたそうです。

「この人を見よ」は60×40cmほどのフレスコ画で、技術的にオリジナルなものではなく、イタリアの画家であるグイド・レーニが描いたイエス・キリストの肖像画とよく似ている模様。


教会の柱に描かれた「この人を見よ」は、信仰の対象として地域の住民に愛されていましたが、壁画に適した材料で作成されていなかったため、経年劣化による損傷がひどくなっていきました。そんな中で登場するのが、教会の維持作業をボランティアで手伝っていたという当時81歳のヒメネスさんです。ヒメネスさんは過去にサンタクララ修道院にある聖母カルメンの絵画を修復する作業に携わったこともあるという人物。

ヒメネスさんは自身の知識を生かして「この人を見よ」を修復することを申し出ますが、作業はうまくいきませんでした。その結果誕生したのが、以下のフレスコ画。ヒメネスさんが修復した「この人を見よ」は世界的に報じられることとなり、「史上最悪の絵画修復」などと呼ばれるようになっています。


修復作業前の「この人を見よ」について、ボルハの文化評議会で議員を務めるフアン・マリオ・オジェダ氏は「『この人を見よ』は教会の湿気によりあまり良い状態ではありませんでした」とABC Radio Pointのインタビューで語っています。

ヒメネスさんは「この人を見よ」の修復作業の途中で休暇に出かけたため、修復作業を完了させることはできなかったそうです。しかし、ヒメネスさんが休暇に向かっている間、修復作業途中の「この人を見よ」の惨状がスペインの主要な新聞紙で報じられ、そこから全世界的なニュースにまで発展。そのため、ヒメネスさんが休暇から帰ってきた時には、修復版「この人を見よ」は既に世界的に有名になってしまっていたそうです。


旅行サービスを提供するVanguard Touristの統計データによると、ヒメネスさんが修復した「この人を見よ」が世間に知られるところとなってから、ボルハへの観光客の訪問数は3倍に膨れ上がり、人口わずか5000人の町の経済を大きく助けることとなったそうです。

ヒメネスさんが修復した「この人を見よ」は、スペインのサラゴザ地方を訪れる人々にとって必見の観光名物となっています。Vanguard Touristのデータによると、2012年以来、ボルハには世界中の110カ国から30万人以上の観光客がヒメネスさんが修復した「この人を見よ」を見るために訪れたという計算になる模様。

ボルハ市長のエドゥアルド・アルディラ氏は、ヒメネスさんが修復した「この人を見よ」を見るための3ユーロ(約410円)のチケット販売により、年間4万ユーロ(約550万円)の収入が発生し、これによりガイド付きツアーを実施するための2人の従業員を町で雇うことができるようになったと語っています。


記事作成時点では91歳のヒメネスさんですが、修復版「この人を見よ」のブーム全盛期に、必ずしも楽しい時間を過ごしていたというわけではない模様。「この人を見よ」の作者であるマルティネスの親族との間の論争や権利問題、マスメディアからの圧力などで、頭を悩まされることも少なくなかったそうです。しかし、ヒメネスさんによる修復版「この人を見よ」は世界的に有名になり、さまざまなグッズが制作されたことで、印税により多くの金銭を得ることになっています。

ヒメネスさんは修復版「この人を見よ」の著作権の49%を保有しています。そのため、修復版「この人を見よ」関連グッズの収益の半分がヒメネスさんの懐に入るようになっており、残りは地元のサンクティ・スピリタス財団に寄付されるようになっているそうです。

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in アート, Posted by logu_ii

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